真の課題 6
ローリィはこの状況にとても焦りを感じていた。
明らかにアナトのペースに飲まれている。しかも、彼女は槍聖、術聖、弓聖の三職持ち。今は槍しか使っていないことから、本気ではないことが分かる。だが、逆に言えば油断している、もしくは様子見の段階ということでもある。今の内に腕一本は落としておきたい。
(私もこの瓦礫を利用させて貰いますか)
そのように判断したローリィはアナト同様、瓦礫を蹴り上げて空中を移動し始める。また同時に浮遊魔術を用いる軽やかな、それでいて素早い動きでどんどん場所を変えていく。
アナトはまだこちらを視認しているのか?彼女は一体、何処に潜んでいるのか。三百六十度、上下左右全てを警戒しながら彼女は剣を構える。
さぁ、次は何処から来る?
そう思考している時だった。
「ッ!!」
突如、右手にあった大きな瓦礫がこちらに向かって吹っ飛んでくる。その瓦礫の後ろにはアナトの姿がちらり、と見える。
(瓦礫を飛び道具として使ったのか!?)
すぐさまソーンツェメッチで向かってくる瓦礫を滅多斬りにする。きっと剣の効果なんだろう、斬られた瓦礫全てが灰となって燃え尽きていく。
その最中、背後から強い殺気を察知する。
(この隙に後ろに回られましたか!?)
だが、間に合わない。もう剣を回し、背後の攻撃に対応する時間はない。だが、手段が無いわけでもない。ローリィはすぐさま空中に魔法陣を展開、炎の球体を作り出し、背後に向けて放つ。
(背後に回られたのがバレたか……)
アナトとしてはしっかり瓦礫を使って身を隠していたつもりだったのだが……まぁ、相手も超一流の戦士だ。自分だって相手が見えていなくても予測や気配などで位置が分かることだってある。
冷静な対処で向かってくる炎を槍で払っていく。
その間に背後を振り返り、ローリィは剣を思いっきり振り下ろす。刃が上から下へと向かうと同時に、炎を纏った衝撃波が生まれ、アナトに襲い掛かる。それは無詠唱、無魔法陣であったが、規模や熱量からして絶大級の剣術であることが想像出来る。
だが、アナトはその一撃すら簡単に振り払うのであった。
そのタイミングで二人は地面へと到達し、急激に重力が身体にのしかかる。瓦礫もまた次々に落ちてくる。魔力で身を守っているため、大丈夫ではあるが、それでも頭にぶつかったり、大きな瓦礫の下敷きになったら危険だ。しかし、二人は一切、気にせずに互いを見ていた。
「やっぱアンタ、強いね。私の動きに冷静に対処出来てる」
「アナタもですよ、アナト。最強の冒険者と呼ばれるのには、それなりの所以があるというのが分からされましたよ」
瓦礫の雨が降る中、二人は呼吸を整える時間を稼ぐために、とはいえ心の底から称え、褒め合う。それでいて頭の中はどのように倒すか、思考を巡らせていた。




