真の課題 5
同じ思考に至った二人は、出し惜しみすることなく、自身の最高火力を叩きだしていく。
ローリィは懐から小さな缶をいくつか取り出すと、握り潰し、捨てていく。中には何も入っておらず、プシュー、という音を立てていく。そして間髪入れず剣を持ち直し、無詠唱、無魔法陣で神術〈スヴァローグ・プラーミャ〉を発動させる。また同時に空中の炎の球体をいくつも生み出す。それは最初、アナトに放った核融合の炎であった。
(神術の無詠唱に、まさか絶大魔術の並行運用か!?)
先ほど、詠唱を通して〈スヴァローグ・プラーミャを発動させていたため、そこまでの実力はないと思っていた。が、それはブラフだったということか。また先ほど握り潰した缶も、中には核融合に必要な軽い元素、水素が入っていたと想像出来る。
やはり技量ではアナトと互角、という所か。
だからと言って、アナトと同等というわけではない。
アナトは一気に体内に生成した魔力を放出、身に纏う。そして槍を大きく振り上げ、叫ぶ。
「絶大槍術〈ニミア・インプルッサ〉!」
詠唱終わりと同時にアナトは槍を振り下ろす。
それは巨大な衝撃であった。一気に炎は掻き消され、彼女らの居た辺り全て……城の床、天井、壁は跡形もなく崩壊していく。その衝撃にローリィは無傷ではあったものの、踏ん張る床すら崩壊した結果、再び吹っ飛ばされていく。
(この城は神々が造った神代の建物ですよ!?それをこんな簡単に破壊するなんて……!)
いわばこの建物全てが現代の魔術では再現不可能の神代の遺物。かつて神々の争いにおいても生き残ったというこの城をこのようにしてしまうなんて──
いいや、逆だ。
この城だからこそ、アナトの全力攻撃に全壊せずに済んだのだ。きっと現代の技術で建てられたモノであれば、人、モノ、あらゆる物全てを巻き込んで全壊していたに違いない。
だが、化け物なのはここからだった。
浮遊感に飲まれ、混乱して脳が少しフリーズしていたローリィに対し、このガラガラと瓦礫となって崩壊していく最中、天井や壁だった一部の瓦礫を蹴りながらアナトはローリィに急接近していく。そして瓦礫を死角として上手く活用し、槍に魔力を込め、凄まじい突きを放つ。
気づけばローリィの目の前に広がる瓦礫が粉砕され、槍先が彼女に襲い掛かる。それでも思考はまだ定まらないまま。しかし、目の前の出来事に反射神経で身体が無意識に動く。
ガキッ!!と剣でその突きを正面から受け止め、勢いよくはじく。そして、これは空中にいるためだろう。ローリィが槍をはじいた反動はアナトであれば大した力に感じなかったはずだ。しかし、踏ん張る地面が無いゆえに簡単に後方数十メートルへノックバックしていく。
なんとかフリーズしていた脳が起きてはっ、とローリィが気づいたときには、再びアナトは瓦礫の中へと身を隠していた。




