真の課題 3
アナトは右手の指輪に力を込め、空間に穴を開けると、そこから一本の槍を取り出す。
ローリィはその槍がただの魔具ではないことを一目見て理解する。
(なんですか…あれは……?)
それは調和神アフラから賜った、神代の遺物。人類の負の感情から生まれた悪神、そして悪神から生まれ落ちた厄災。これらを恐れた神々によって作られた槍。敵意、殺意、悪意持つ者総てを追い払ってしまう槍。その名もエクシランケ。
エクシランケに魔力を纏わせ、戦闘態勢を取る。
その瞬間だった。
ローリィの背後にぞわり、と嫌な気配が流れ出す。また、頭の中がとある一つの思考でいっぱいになる。この場から逃げろ、と。
(あの槍の力ですかね?かなり気分の悪いモノです。しかし──)
ローリィは腰に携えていた鞘から剣を引き抜く。その剣の刃は紅く、燃えているような色をしていた。また、剣そのものから魔力が放たれている。
基本、魔力は魂からしか生成されない。ということは──
(あれは私の槍と同じ……神代の遺物か…………!)
それはかつて、この地、セレシアにいたとされる神の一人。永久凍土の地で唯一、凍土を溶かせた存在。調和神アフラによって今や名すら残らない太陽神。しかし、今もここに力は眠っている。その剣の名はソーンツェメッチ。
ローリィはソーンツェメッチを強く握りしめた次の瞬間、一瞬で周囲の空気がまるでサウナの中のような熱気に包まれる。アナトの額から一気に汗が溢れ、ぽたり、と床に落ちる。
だが、彼女は動じない。
二人は睨み合う。
どちらが先に動くか。
間合いの長さで言えばアナトが有利だ。だからこそ、ローリィも警戒していた。彼女の攻撃範囲内に入らない様に、それでいてあと一歩踏み込めば自分の剣が入る範囲内へと。互いにジリ、と床を擦りながら少しずつ距離を縮める。
それは同時だった。
一歩、強く踏み込み、アナトを槍を右から左へと大きく払おうと。ローリィは剣を上からしたへと大胆に振り下ろそうとしていた。
まさか同時だと思っていなかったアナトは、大きく同様する。というのも、先ほども述べた通り、槍の利点は間合いの長さだ。だからこそ、距離を縮めすぎるとその利点は失われるうえ、ローリィの攻撃範囲内にも入ってしまう。
逆にローリィからすれば、アナトの方からこちらに近づいてくれた。その好機を逃すわけにはいかない。ソーンツェメッチにさらに魔力を流し込む。剣身がさらに紅く燃え上がり、強い熱を帯び始める。剣の持つ神代の力を借り、彼女は詠唱を行う。
「神術〈スヴァローグ・プラーミャ〉!」
詠唱と同時に炎が舞い上がり、静かにアナトに襲いかかる。それは先ほどの核融合による熱量以上のモノであった。四大聖の職を持つ者でもこれほどの攻撃を防ぐのは困難であろう。




