真の課題
アナトもまた、城内を歩いていた。とりあえず半年前に入った『会長室』を目指す。とはいえ、あの部屋は単に客人を通すための部屋だったのようにも感じる。そのため、『会長室』であってもシャルチフ会長はいないかもしれない。
だが、今はあそこしか思い当たる場所がない。
あちこちで聞こえてくる戦闘音。城の内側でも、外側でも戦いは続いているようだ。
「早くシャルチフ会長を見つけて、こんなくだらない戦争を終わらせないと」
多くの者はこの戦いで全てが終わると思っている。だが、アナト達は違う。今後も黒いローブの集団に、十五の厄災。まだまだ片付けなければならない案件が残っている。今回のメイガス・ユニオンの戦争だって、これ以上、状況をややこしくさせないためのものだ。
(敵味方関係なしだったら、この城ごと跡形もなく消してやるんだけどな……)
なんて思うアナトであった。だが、彼女は別に殺人に快楽を感じるような人間じゃない。また、誰かが死ぬことに心を痛まない血も涙もない冷酷人間でもない。敵であろうと、味方であろうと、生かせるのであれば、生きていてほしいものだ。
シャルチフ会長だって、この戦争後はどうなるかは分からない。もしかしたら戦争犯罪者として裁判にでもかけられて死刑になるかもしれない。そうはならなくても、戦争によってもたらされた国民の憎しみ、悲しみなどで虐殺に遭うかもしれない。だが、今の状況であれば、生きたまま捕まえるつもりであった。
……まぁ、激しい抵抗があれば手加減出来ずに死んでしまう可能性があるのだが。
「見つけた時は大人しくしていて欲しいんだがな」
そのように呟いていると、彼女の足が止まる。それはアナトが目指していた『会長室』の前であった。
アナトは感知する。それは室内に微弱な魔力を感じたからだ。人が魔力を纏っている気配。
(戦闘態勢に入っているな……!)
きっと開けたその瞬間、攻撃が来るだろう。相手がシャルチフかどうか、分からない。だが、この部屋に誰か来ると読んで待機していたことは分かる。もしかしたらシャルチフ会長の居場所を知っているかもしれない。
正面からその罠を踏み抜いてやろう。
アナトはドアノブを掴み、ガチャリと開ける。
その時だった。
やはり攻撃がアナト向けて襲いかかる。
それは巨大な炎の塊。しかし、その熱量は酸素が燃焼しているだけのものではない。それは小さな太陽、核融合並みの熱量であった。
「ッ!?」
まさかこれほどの火力を持ち出してくると思っていなかったアナトは、すぐさま防御系の魔術を展開。目の前にガラスのように透明な壁が出現する。しかし、その壁はあっという間に破壊され、アナトに炎が直撃する。
アナトの開けたドアから顔を出してきたのは、攻撃を仕掛けた相手であろう者であり──
「まともに喰らってくれましたね……」
メイガス・ユニオンの最高戦力、チャミュエル・ローリィであった。




