攻城 13
ザンクウは刀を大きく振って、刃に付着した血を払う。
「ふむ、やはり剣聖の職に上昇したからか?内臓ごと叩き切ったつもりじゃったが……城の壁ぐらいには頑丈になったようだな」
ベスの耳にはザンクウの言葉が入ってこなかった。
ただ、目の前に広がる自分の血を眺めていた。
(何が……起こった…………?)
やはり、分からない。
しかし、ザンクウの言う通り、傷口はそこまで深くはない。骨や内臓と言った部位には到達していない。大きな血管が切れたわけでもなさそうだ。問題なのは痛みぐらいなものだ。
すぐさま意識を切り替え、剣を持ってザンクウの方を視認し、警戒する。
「致命傷ではないとはいえ、痛みもあれば出血もしている。というのに、こちらをすぐに警戒するとはな。やはりガキの頃に比べれば、大きい成長を感じるよ」
ザンクウも再び刀を構え直す。
(クソッ、やっぱ舐められてんな……)
自分の目では理解できないほどの速度で斬ったザンクウは、この間にも自分を攻撃するタイミングはいくらでもあったはずだ。しかし、彼は何もしない。それはきっとこの戦いに余裕があるからだ。自分が格上で、ベスが格下だとはっきり理解しているからこその思考、行動なのだ。
だが、そこにきっと勝機があるはず。
すぐさま簡易的な魔術で細胞の治癒能力を上げ、出血だけは止めていく。
(絶大剣術程度じゃあダメだな。かと言って自分から仕掛けず、ザンクウの攻撃待ちは悪手すぎる。ザンクウのペースに飲まれて終わるだけ)
アナトのように無詠唱で絶大剣術を、まるで呼吸するかのように連続発動させられればザンクウを押し切れるかもしれない。だが、それほどの力を自分は持っていない。
で、あれば──
(一瞬を狙うしかあるまい)
ザンクウのペースに飲まれないように、攻防は常に上級剣術を用いる。そして格下だと思っているからこそ、少しでも油断したその一瞬に絶大剣術を叩きこむ。
勝つための道を見た、やる事は決めた、あとは実行するだけ。
ふぅー、と息を吐き、恐怖や諦念と言った要らないモノ全てを頭の中から吐き出す。
「まだ悪あがきするか、良い心持だ!」
ザンクウは右手に力を入れ、強く刀を握りしめる。そして足に魔力を纏う。
来るッ!
そう思った時には身体が反射で動いていた。
ベスは剣からぶわりッ!と炎が噴射される。それは剣を振る推進力となり、いつも以上の速度で剣が振り上げられる。そして、ガキンッ!と鉄と鉄同士が激しくぶつかり合う音が鳴り響き、ザンクウの刀が逸らされていく。また、噴射された炎はそのまま周囲を舞い、凄まじい熱を放射していく。
しかし、ザンクウは左手で持っていた刀でその炎を払い退ける。
その隙を狙い、ベスは攻撃を仕掛ける。
足を一歩、踏み出し、振り上げた剣をそのまま強く振り下ろす。が、ザンクウはそれを見切って素早く躱して見せる。
「くそッ、外したか……!」
「はははッ、良い動きじゃないか!もっと俺を楽しませろ!」
ベスの悔しい声と、ザンクウの楽しそうな声が響き渡る。
二人の激しい攻防戦はまだまだ続いていく。




