攻城 12
ザンクウは少し驚いた様子だったが、すぐさまベス同様、戦闘態勢へと戻る。
「まさか、立ち上がるとはな。死んだふりでもするんじゃないかと思っていたよ」
「そんな事はしねぇよ、クソが」
ベスの中で怒りがどんどん湧き出て来る。それは決してザンクウに対する感情ではない。自分ではザンクウに届きえないと思っていた自分に対してであった。
確かに届くことはないだろう。怒りの中にあってもしっかり理解している。ザンクウと自分は立っているステージが違うのだ、と。彼は戦士の最高峰だ。それは最強の冒険者アナトと同等か、それ以上。
生涯、剣技に全てを打ち込んでも自分はそのステージに立てないかもしれない。しかし、それだけで自分がザンクウに勝てないと決めつけるのは早計だ。今、この一瞬、一秒に自分の総て……命すら賭けて戦えばそのステージに片足だけでも乗せられるかもしれない。
倒すまではいかなくても、深手を負わせるくらいなら──
ベスは息を整え、宣言する。
「職位上昇、剣聖解放」
その瞬間、ベスの魔力量が跳ね上がる。
「ほう、剣聖か……!そこまで行っていたとは!!」
「これならアンタに届き得るだろッ……!」
ベスは剣を下げる。それは戦闘の意思がないわけではない。刃をしっかり上に向かせ、斬り上げる態勢であった。そして魔力を脚に纏わせ、自分から攻撃を仕掛ける。
「絶大剣術!」
ザンクウは驚きの連続で、声色からかなり興奮している事が分かる。勝手についてきていた故に弟子とは言えないかもしれない。とはいえかつて自分の技術を教えた者が予想以上の成長をしていることはとても嬉しいことでもあり、それと同時に──
「〈雷破り〉!」
詠唱終わりと同時にベスが振り上げた剣を中心に雷が発生。バチバチッ!と強い音を鳴らしながら、それはザンクウに襲いかかる。
だが、彼は全く微動だにせず、ただ一言。
「全く、本当の実力を隠しているとは、失望したぞ」
振り上げられた剣を正面から刀で受け止める。まっすぐザンクウへと襲いかかるはずだった雷撃は周囲に霧散し、リズムよくバチバチと鳴らしながらこの城を構成する頑強な壁や床へと散っていく。
前にも述べた通り、刀は鋭い故に脆い。すぐに刃こぼれを起こしてしまう。無論、ザンクウは緻密な魔力操作を行い、刀を強化することでその脆さを乗り切っている。
しかし、ザンクウの絶大剣術すら、刃こぼれなしで受け止め切れるとは──
「ッ、マジかよ……!」
さすがに正面からは受けきれまい、と思っていたからこそ、ベスの額から一気に冷や汗が流れ出す。
自分はやってはいけない選択をしたのではないか?
届き得る、なんて思い込んだのが運の尽きだったのかも?
分からない。
「さて、じゃあ次は俺の番じゃな」
そう言って、ザンクウはベスの剣を受け止めたまま刀に力を入れ──
「ッ!?」
何が起こったのか、見えなかった。
ただ、理解した時にはザンクウは刀を振り下ろしており、胴体に大きな傷が出来上がっていた。




