攻城 8
アナトは他の冒険者たちと違い、かなり余裕であった。すぐさま自分の周囲に結界を展開し、身を守っていた。かなり頑丈な結界のようで、どんどん押し寄せてくる化け物を押し留めていた。
しかし、それはあくまで自分の範囲。
他の冒険者たちを守るためには……この化け物たちを対処するにはどうするべきなのか……。そういう点で言えば彼女の方にも余裕はなく、常に思考をフル回転させていた。
(ここら一帯を吹き飛ばすか?いいや、そんな事していたら味方も巻き込む。門を閉めに行くか?いいや、閉めた所で門すら壊してコイツらは突き進むだろうな)
アナトは考える。
この間も犠牲は増える。
もう巻き込んでしまっても良いのではないのか?間に合わず、救えた命も救えないとなったら本末転倒だ。だったら今のうちに──
その思考の最中、とある者の姿が脳裏に映る。
それは自分の弟で、子供のような事を言っている少年。しかし、その精神と行動は確かに尊敬するべきその存在が現れる。
「確かに、うちの弟だったらそんな事はしないな」
何故、自分は冒険者なのか。
戦いたいからか?
英雄になりたいからか?
目の前にいる敵を蹂躙したいからか?
いいや、違う。
「人のためになりたいからッ!!」
その瞬間、彼女は迷わず魔法陣を大地に展開する。それはこれまで見たことの無いほどの巨大な魔法陣。アナトを中心にメイガス・ユニオン本部を守っている結界の範囲さえ超えてその魔法陣は出現する。
しかし、その魔法陣はまだ未完成。円だけのもので、内部の図形、数式はまだ描かれていない。
(思い出せ、アイツの技を……サルワの力を!仕組みを……!魔術理論の構築を……!)
凄まじい勢いで思考を回し、計算する。仕組みを考え、物理演算を行う。そこから更に必要なエネルギー量を測定。次に生成する魔力量を必要なエネルギーから逆算していく。
(魔術の展開領域を約三キロと仮定、領域内にある物質量を……!くそッ、めんどくさいが…)
どんどん魔法陣内部の図式が埋まっていく。
「構築完了!絶大魔術〈グラビティ・ゼロ〉!」
詠唱したその瞬間だった。
敵、味方、化け物問わずあらゆる者が宙に浮き始める。
「な、なんだ!?」
「う、動けない!!」
あちこちで驚愕の声が上がる。
全員がまるで水中の中にいるかのように、ジタバタしている。が、水中とは違い、前にも後ろにも進めないようだ。その姿はまさに滑稽だった。
しかし、敵味方関係なく、この状況では戦うことは出来ない。
まさにこの術こそ、神都でサルワが見せた力。支配の厄災の力を用いて周囲の重力場を操る力と似た……いいや、同等のモノであった。それを魔術理論で組み直し、即興でアナトは再現をして見せたのだ。
まさにそれは天才の領域、人の域をを超えたモノであった。




