攻城 5
そこはメイガス・ユニオン本部内。
まだ結界が破られた事に気づいていないのか。多くの魔術師が変わらず研究活動を行い、兵士たちが休息している。しかし、戦果中の中で物資不足のこの状況……ほとんどの者が満足出来る食事、睡眠が採れずに半分死んだような表情であった。
そんなメイガス・ユニオンの中へ入ってくるのは、激しく息切れしながら玉のような汗を流す一人の兵士。見たところ、下級兵のようだ。
「ほ……報告があります!!」
来て早々に声を荒げながら叫ぶ。まだ息も整っていないというのに──
そのただならぬ雰囲気から、何かが起こったのを察した上級兵が近づく。
「私はファブリア少将だ。貴殿の抱えている案件、報告を聞こうではないか?」
そう言われ、下級兵は汗を腕で拭い、一度「ふぅ」と呼吸して報告する。
「…け、結界が……破られました!!!」
その言葉で周囲は一気にざわつき始める。
「おいおい、まじかよ……」
「あれほどのバリアを突破するなんてな」
「魔術の研究したいからメイガス・ユニオン入ったのに……殺されるのか?」
「そもそも、籠城戦が間違ってたんだよ!正面から勝ち目ないからって──」
このように恐怖や戸惑い、また今更言っても仕方のないことを皆が口々にし始める。一部の者はふらふらと現実逃避するように何処かへと歩いていく。
その状況にイラつきながらも、上級兵である以上、場を納めなければいけないと思ったファブリア少将が一気に空気を吸い込み、叫び出す。
「黙れッ!!!!!」
その言葉でビタリ、と動いていた口や舌が停止する。
「死ぬかもしれないだとか、間違っていただとか、そんなモノは今、関係ない。必要なのは、何が起こっているのか。そして、我々は何をすべきかということだけだ」
ファブリア少将はとても冷静であった。やはり少将という役職まで成り上れたのは、しっかり持っている側の者だからなのだろう。キレる頭脳、魔術師としての才能、強い精神性──
だからこそ、皆が沈黙する。それは「黙れ」と言われたからでもあるのだが、彼の言う通り、何をするべきか重要だと理解したからである。上級兵である彼の判断を……命令を仰ぐべきだと思ったからである。
「さて、より詳細に現場の状況を聞かせてもらおうか。破られたというのは、結界そのものが消滅したということか?」
その言葉に、伝令として来た下級兵が答える。
「い、いいえ、穴が開いた感じです」
「では、冒険者の侵入は?どれほどの規模だ?」
「さほど多くは……。しかし、アナトを筆頭に多くの冒険者が侵入中で、結界外に待機している冒険者はさらに穴を広げようと結界を攻撃し続けています」
「なるほど……」
ファブリア少将は思考する。
本来、これほど大きい問題はより上の中将、大将にも通達し、会議を開かなければならない。しかし、急を要するこの問題に、会議するような時間はない。




