案内人 6
ロームフの顔は誰にも見せられないような、ぐしゃぐしゃになっていた。
それでも、荒く呼吸しながらハティから逃げる。
しかし、ハティも疲労しているのだろう。そもそも、魔物含め、獣は人より速く走れるモノは多い。が、持久力がないモノがほとんどだ。それこそ、一時的な速度では人間は遅い。が、、一日で可能な移動距離は人間がトップなのだ。
しかし、ハティはただの獣ではない。簡易的に魔術を用い、身体能力を魔力で引き上げる魔獣だ。
「……!」
ロームフの目の前が急に真っ暗になる。
ハティが狩りに用いる、視界操作する魔術だ。
(このタイミングで使ってくるのか……!?)
ただでさえ、頭の中が後悔と反省でぐちゃぐちゃになっていたというのに、目の前がわからなくなり、右も左も、自分が一体、何処を走っているのかさえ理解出来なくなってしまい、パニックを引き起こす。
本来であれば、魔獣が展開したこの程度の術、簡単に解く事が出来ただろう。だが、今ではそのような冷静な判断が出来ず、足をふらつかせながら、ただひたすらと走る。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ!!」
こんなところで死にたく無い。
みんなの足を引っ張って、正しい選択肢も取れず、嫌な自分のまま……何も出来ない自分のまま……魔獣に食われて死んでしまうなんて──
そこで、ロームフの背中に強い衝撃が奔る。
重いモノがのしかかった衝撃、次の瞬間には鋭い何かで背中を引っかかれる。
何が起こっているのか、分からない。が、予測ぐらいは出来る。
そのまま倒れ込むと、のしかかったモノが息を荒らしながら、こちらを覗き込む。
魔力で身を纏い、抵抗しようとするが、それも無駄な事だろう。
「こんな所で……嫌だァ!!」
その時だった。
ダァンッ!と火薬の破裂する音。それが三回鳴り響く。その途端、ロームフの顔に温かいモノが滴り落ちると、のしかかっていたそのナニカはどさり、と倒れ込む。
そして、ハティの魔術が停止する。
周囲を確認すると、三匹のハティが倒れていた。頭に穴が空いていることから、弾丸で貫かれたことが想像出来る。助かった、とホッとしながら次に発砲音の聞こえた方向へとロームフが目線を向けると──
「大丈、夫か……?」
そこに立っていたのは、リボルバー式拳銃を持ったエルフの少女。小柄で、エルフとしては魔力量も少ないその少女は、しかし、ロームフよりも頼りになりそうなほどの存在感であった。
「き、君は一体……?」
「私は…シリウス。冒険者……連合、から…使いで来た。ここから先の…トーゼツ達の……案内人」
シリウスと名乗ったエルフの少女は、銃のチャンバーを回し、リロードを行いながら答える。




