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案内人 5

 数を減らしたい。だが、攻撃は当たらない。足を止めようものなら、ハティに囲まれて四方八方から攻撃されて詰む。取れる選択肢は少ない。であれば──


 「ロームフ、お前はこのまま全速力で逃げろ。俺はここで囮になる」


 トーゼツのその言葉に、ロームフは戸惑いながらも、答えが決まっていたかのように即座に否定する。


 「ダメです!それで俺が逃げれても、トーゼツはどうするんですか?」


 「俺には固有技能がある。ここで説明する時間は無いが、なんとなくお前も気づいていただろ?」


 確かに、ザンクウとの戦いでトーゼツは何度も死んでもおかしくない攻撃を喰らっていた。最初はテルノドの治癒魔術のおかげだと思っていた。だが、さすがに治癒魔術では説明出来ないほどの深傷を負い、それでも復活し、立ち上がっていた。


 きっとそれがトーゼツの固有技能なのだろう。肉体回復系の、どんな致命傷でも復活してしまう、まさに切り札(ジョーカー)になってしまうような。


 しかし──


 「危険です!それに、トーゼツが囮になったからと言って俺が逃げ切れる可能性は百パーじゃない!もしもトーゼツを囮にするのであれば、それは確実に!俺たち二人が!生き延びる作戦を──」


 そのように述べようとしたロームフを、突然トーゼツが押し倒す。


 「危ない!!」


 その時だった。


 トーゼツの腹部に痛みが駆け抜ける。ロームフの目の前で鮮血が散っていく。突然の事だった。故に何が起こったのか、ロームフには理解出来なかった。


 そして、数秒経ってようやく認識する。


 どうやら数匹のハティが先回りしていたようだ。追いかけていたハティはこのポイントに来るように追い込み、そしてまんまと読み通りに来た我々を闇夜の中に紛れて潜んでいたハティが襲い掛かって来た。


 トーゼツは腹部を嚙みちぎられたようで、ぽたぽたと白い雪の上に紅いモノは垂らしていく。


 (また……だ。また、俺が──)


 ロームフの思考がさらに鈍くなる。


 もしも、油断せずに周囲の魔力探知を行っていれば……。


 もっとトーゼツの策を早く吞んでいれば……。


 弱い自分より、強いトーゼツの方が無傷であれば……。


 「何してる!こうなったらつべこべ言わず俺の作戦通り動け!逃げろ!!」


 そう言われ、ロームフは何も考えず逃げ出す。いいや、違う。考えるのがもう嫌になった。幾つもの選択肢があった。世の中、数学のように絶対の正解はない。しかし、より良い答えがあるのも事実。自分はそれを掴み取れなかった。


 後ろから、数匹、追い掛けてくる獣の足音が響く。


 あぁ、どうすればよかったんだ。


 自分なりに立ち止まって、考えて、選ぼうとして……それでトーゼツが負傷した。ザンクウの時だって、そうだ。自分は間違えてばっかりだ。


 何処から、俺の歯車は狂い出した。


 何処から、俺は後悔を始めた。


 一体、何処から──

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