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案内人 4

 ロームフは魔法陣を展開し、詠唱を始める。


 「中級魔術〈イラァストゥレェイトゥ・キルクィトゥス〉!」


 その瞬間、魔法陣を中心に周囲を強い光で照らし出す。


 ハティは夜目が効くが故に、強い光に弱い魔獣でもある。このロームフの魔術によって目が眩まされ、多くのハティが怯んでしまう。また、一部のハティは気絶までしてしまう。


 このタイミングで二人はハティの包囲網から抜け出す。


 その直後から、雪の上を駆けていく音が後方から強く響き出す。その音を確認するようにちらり、とトーゼツは後方を見る。六頭ほどのハティは素早い動きでこちらを追いかけてきている。


 「ちぃッ、運良く全部、怯ませていればラクだったのにな!そう上手くはいかないよな!!」


 二人は魔力を足に纏わせ、脚力を底上げして走る。しかし、ハティとの距離は離れず、とはいえ縮む事なく、一定の距離が続く。


 「これは……まずいですね」


 そのようにロームフはぽつり、と呟く。


 トーゼツもこの状況がとても危険な状態である事には気づいていた。


 (後方にいる六匹以外にも、平行移動するように右にも左にも何かがいるな……。微小な魔力しか探知できないけど、未だにハティの包囲網から抜け出せていないってわけか)


 これが魔獣の狩りということか。言語を用い、聴覚と視覚を重要視する人とは違い、本能と獣の理で集団行動を可能とするそのハティの動きはまさに予測不可能なモノであった。もちろん、ハティを研究しているような学者であれば予測可能かもしれないが、トーゼツも、ロームフも、そんな学者ではない。


 (感知出来る数は十三頭……異常だぞ、この数は──!)


 まだ後方にいる六頭程度であれば、トーゼツ一人でなんとか出来たかもしれない。なんなら、トーゼツ一人なら固有技能を使ったゾンビ戦法で何頭いても倒し切れるかもしれない。しかし、今回はロームフがいる。ロームフの事を考えながら、最低十三頭の数を倒すのは難しい。


 とりあえず、ハティのこの包囲網を崩すのが無難か。


 「これでも食らっとけ、中級剣術〈フラマ・スラッシュ〉!」


 刃に魔力を込め、追いかけてくるハティに向けて赤い刀身の短剣を振り下ろす。すると、炎を纏った斬撃がハティに向かって放出される。が、ハティはそれを軽々しく避け、何事もなかったかのように変わらず追い掛けてくる。避けられた斬撃はそのまま森の木々や雪を溶かして、消えていく。


 ロームフもまた、無詠唱、無魔法陣で下級レベルの術を展開し、攻撃する。炎や風、氷が出現し、ハティに襲いかかる。のだが、やはり避けられてく。


 「ちぃッ!魔力の流れを感じ取って、攻撃の先読みをしてきやがるな!さすがは獣ってとこか……!」


 魔力を扱える者であれば、魔術師でなくても大気や人の肉体を巡る魔力の動きを観測する事が出来る。また、魔術を用いた場合の魔力の流れや動きから、一体何の魔術を発動させているのか、予測する事もできる。だが、そこまで至るにはかなりの経験や知識が必要になる。


 それをハティは理屈や理論ではなく、勘と本能で避けるているのだ。人の思考、行動ではないゆえに。トーゼツとロームフはハティの動きに惑わされていた。

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