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案内人

 そこはメイガス・ユニオン本部から見て百キロほど離れている南東の方面。セレシアの大地、その三割から四割に広がる森林、タイガが広がっていた。


 森林、と言えばまるで緑が広がる豊かな地と思うかもしれない。しかし、タイガは永久凍土の大地に成り立つ事もある森林であるため、生命が生きるのにはとても過酷な環境でもある。


 そんなタイガの中、雪を掻き分けて突き進んでいくのはトーゼツとロームフの二人であった。


 本来であれば凍傷などに気をつけなければならない所だが、魔術を使える二人はそれを魔力や魔術で体温維持することで気にすることなく歩いていた。


 とはいえ、やはりこのような雪道には慣れていないのか。トーゼツの表情はかなり険しく、つらそうなモノであった。それに対し、ロームフはセレシアの出身者だからか。とても慣れたような歩き方でずんずんと進んでいく。


 「はぁ、はぁ……!」


 白い息を吐きながら、トーゼツは突き進む。


 「感覚で良い、ロームフ。あとどれくらいで着く?」


 「そうですね……」


 ロームフは、この辺りの地理に魔物や獣の生態研究で赴いた事があるので少し分かっていた。


 「百キロ…いいや、あと八十かな?まぁ、とりあえず歩き続ければ二日、三日以内でいけると思いますよ」


 「そうか、ようやくこの歩き旅の終わりが見えてきたな。良い事を聞いた」


 というものの、とても良い事を聞いたような表情ではない。肉体的にも、精神的にも疲労が溜まっているのだろう。それにトーゼツの頭の中で、ずっと一つの気掛かりが残っていた。


 それはテルノドである。


 ザンクウに勝てるとは思えない。とはいえ、死んだ……とも思いたくない。きっと時間を稼いで逃げていると信じているが──


 (……くそッ!)


 あれが最良の選択だった。あのまま戦えば、三人ともザンクウに倒されていた可能性の方が高い。そう頭の中では分かっているのだ。しかし──


 「……セレシアの夜は早い、この時期は特に。あと二時、三時間ほどで暗くなるでしょう。この辺りは魔物、獣もいます。そろそろ食事にして、寝ますか」


 トーゼツの前を歩いていたロームフは立ち止まり、そのように呟く。


 それはトーゼツの表情、感情を読み取っての言葉なのか。それとも今、ここで休憩しておかなければいけないという事実に基づいての発言か。


 二人はタイガの森の中、燃えやすい枯れ木などを見つけると、焚火を始める。このような雪が積もる場所での焚火はコツが必要なのだろうが、魔術で火と風を操作すれば容易なことであった。


 雪を溶かし、水分を取りながら持参した肉やパンを軽く食べると、火の守り番を一時間交代することを決めて先にトーゼツは横になる。疲れていたからか、あっという間に眠ってしまった。ロームフは焚火の守り番をしながらぼーっと故郷の風景を眺めていた。

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