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籠城戦 4

 シャルチフ会長はバタン、とドアを閉める。


 そこはメイガス・ユニオン内にある自分の部屋。


 入ってすぐに見えるのは椅子やテーブル、本棚であった。テーブルの上にはいろんな書類が無造作につまれており、数式や魔法陣などが描かれている。どうやらほとんどの紙が研究書類のようだ。その他にも石炭を用いた簡易的なストーブに、これまた魔術によって簡単に火をつけることが出来るキッチンなど、かなり生活感のある空間であった。


 シャルチフはここに住んでいるわけではない。ちゃんと自分の家を持っており、そっちの方が広く、自由である。維持するために常に掃除や、管理をさせるための使用人だって雇っている。


 しかし、メイガス・ユニオンでの仕事、自分のやりたい研究……そのようにやりたい事、やらなければならない事を考えれば、ここで生活する時間の方が長くなるのは当たり前だ。とはいえ、キッチンには少しばかり埃が溜まっていることから、ここ数週間は使っていないようだ。


 というのも、考えれば当たり前の事だ。メイガス・ユニオンへの物資は途絶えているし、この籠城中では買い物しようと気軽に外へ出る事も出来ない。


 テーブルの上の研究書類を手に取り、何かしらの数式を書き込み、そこから魔法陣を考え出す。


 「ふむ、昨日は出なかったが、やはり寝て、仕事をしている中で突然ふっと発想が出てくるもんだ」


 シャルチフは考えた魔法陣を頭の中に叩き込むと部屋を抜け、さらに奥へと進んでいく。


 多くのメイガス・ユニオンに加入している魔術師の中でも、成績優秀な学生、多大な功績を挙げた戦士、そして研究成果を持った一部の魔術師が自分だけの研究室を持っている。


 その中でも、シャルチフ会長の持つ部屋は大きく、広い。なんと八人分の部屋がシャルチフ一人で取っているのだ。それは無論、それは単純に組織のトップ、会長であるという権限を用いたからである。


 どんどん部屋の奥へと進み、そこにあったのは──


 真っ黒なナニカ。


 そこの部屋だけ家具もなく、壁もなく、床も、天井もない。ただ広がっているのは漆黒。まるで泥のように全てを呑み込みそうで、この世界からは隔絶された恐ろしい空間。


 シャルチフはその部屋の中央に立ち、泥のような床に魔力で魔法陣を描く。


 「さぁ、今日も交信しようか」


 泥が蠢き始め、部屋が軋み出す。泥の一部が光出し、奇妙な世界を作り出す。幻想的で、冒涜的でもあるその世界はまるで──


 「『アルーパ・ダァートゥ』へと」

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