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籠城戦 3

 シャルチフ会長はローリィを睨む。


 「もしかして、お前の差し金じゃないだろうな?」


 いつから居たのか、それは分からない。もしかしたら先ほど来たばかりなのかもしれない。しかし、襲われている所を助けもせず、万が一、見殺しにしようとしていたのであれば──


 その言葉にローリィは軽く「はは」と笑いながら答える。


 「まさか!確かに私も今回の戦争以前から多少の不満はありましたよ。でも、それは内部から改革しようと思っているだけで、裏切りだなんてね」


 「………………」


 そのローリィの言葉は嘘ではないようだ。だが、本当の事を言っているとも思えなかった。


 メイガス・ユニオンはセレシア国家の魔術機関である。それを踏まえた上で情報の横流し、他組織への無断での技術提供といった裏切りとなると、場合によっては死刑だってありえる。


 さらに現在は戦争中だ。戦争にセレシア軍は介入しないという決まりがあるが、それでもメイガス・ユニオンと国家に深い繋がりがある事には変わらないし、戦争への介入でなければ、メイガス・ユニオンへ国家が介入することは可能ということだ。


 そう考えると、メイガス・ユニオンを裏切るという行為はとてもリスクのある行為だと言える。


 「まぁ、良いか。お前は組織内だけではなく、セレシアが誇るエルフの大英雄だ。どんな処罰を下しても、地位と名誉が落ちるのはこの私だからな」


 逆に言えば、地位と名誉を捨てる勇気があるのであれば、彼は公式にローリィを死刑にまで持っていけるということでもある。


 どんな英雄でも、たった一人で大国には立ち向かえない。


 「しかし、不満を持つ者が多すぎる。一部の兵士はレジスタンスを築いていると聞いている。それだけではない。この城内部に冒険者連合の者も紛れ込んでいるという報告も上がっている。全く、自室であってもゆっくり眠る事も、研究する事も出来んわ」


 そう呟きながら、シャルチフ会長を立ち去っていく。それは研究室兼、自室のある方へ……。


 彼が去ったのを確認すると同時に、チャミュエルの影の中からぬっ!と何かが這い上がってくる。


 「……行ったようだな」


 それは黒髪のエルフの男であった。彼は先ほど、シャルチフ会長が言っていた侵入者であり、冒険者の一人。そして、ベスの部下であり特異課に所属する、固有技能を持つシンシェイであった。


 そんな彼の体をまとわりつくように黒いスライムのような何かが蠢いていた。


 「俺の侵入がもうバレているとはな」


 「この城内部にはあちこち結界、バリアが展開されていますからね。影の中に潜んでいても、何処かで検知に引っかかったのでしょう」


 「まぁ、良い。ある程度、内部情報は取れたからな。あとは──」


 シンシェイはシャルチフ会長が去った方向を眺める。


 「あの男……シャルチフが一体、何を研究しているのか。その調査が終われば俺の任務は終了だ」

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