籠城戦
そこはセレシア、メイガスユニオン本部。
魔鉱石で建築されたその漆黒の巨大な城。とても不気味な雰囲気を醸し出しているその城を守るように建てられた防壁。そして防壁を境に冒険者連合によって招集された冒険者とメイガス・ユニオンの魔術師が睨み合っていた。
「はぁ、まだ諦めないのか」
アナトは防壁周辺を歩きながら眺めながらつぶやく。
やはり当初の予測通り、メイガス・ユニオンは本部で籠城戦を始めてしまった。防壁の包囲は完了した。補給は完全に切った。しかし、籠城戦は外部からの支援の見込みがなければ意味が無い。
優位なのは冒険者連合だ。勝率が九割あると言っても過言ではないほどに。
とはいえ、冒険者連合の方にも物資問題が響いてきている。
敵地の奥まで侵略してきたのだ。周囲の冒険者連合加盟国から物資を運んでもらっているが、集めるのも、運搬するのにも時間と労力がかかっている。国と国の戦争であれば、周囲の村や都市から物資を収奪する事も出来ただろう。しかし、今回の戦争の条件はあくまで組織同士の戦いであること。この条件を守らなければ、冒険者連合の信頼は無に等しいほどに下がってしまい、世界戦争が勃発する事だろう。
そのうえ、士気がどんどん下がっている。いつまでこんな戦争が続くのか。メシは碌に食えない、この戦争に勝ったとしても、その結果が自分に回ってくるのか。失った戦友でも戻ってくるというのか?良い生活が送れるというのだろうか?
そのような感情がどんどん渦巻いている。
だから、冒険者連合の代表であり、冒険者の頂点に立つアナトが防壁周辺を歩き回ることで敵のメイガス・ユニオンに圧をかけると同時に、共に戦う冒険者たちの士気を上げようとしているのだ。
「しかし、改めて考えると籠城戦を始めて一か月以上は経つぞ!?まだ相手は持つのか……?」
一体、シャルチフ会長は何を考えているというのか。
「おい、アナト。時間だぞ?」
防壁を眺めていたアナトに声をかけるのはベスであった。
「もうそんな時間か」
アナトは懐中時計を取り出し、時刻を確認する。冒険者連合は六時間ごとに防壁突破を目的とした集中攻撃を行っており、ベスはその時間が来たという報告をしに来たのだ。
「本当に時間か?少し早くないか?」
「だったらそっちの時計がずれてんだよ」
そういってベスは定位置へと戻っていく。
「さて、んじゃあ私も戻るか」
そうしてアナトも戻っていく。
数分後、冒険者側から魔術による一斉砲火が行われた。が、防壁に付与された魔術によってその全てが防がれていく。メイガス・ユニオンから略奪した魔術兵器も用いるのだが、やはりビクともしない。
また、反撃としてメイガス・ユニオンからの攻撃も行われるが、やはり冒険者連合に比べると威力も、量も少なく、焼石に水としか感じないほどであった。




