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サムライ 8

 魔術においても概念にまで及ぶ術は基本、ない。厄災の狂気のように、他人の精神に入り込んだり、侵食する魔術もあるのだが、それらは『精神』というより、脳の細胞や神経の刺激を与えることで行っているだけにすぎない。


 もしも本当に実体の無いエネルギーや、魂や精神を知覚してそこに及ぶ力があるとしたら……それは神の領域にまで片足を突っ込んでいる。


 となれば、ザンクウは──


 そのように魔法陣が斬られるという、ありえない事象に脳がフリーズしていたテルノドに、容赦無くザンクウは手首を巧みに使い、刃を返し、今度はテルノド目掛けて下から上へと切り上げる。だが、テルノドもすぐさま意識を切り替え、ギリギリの所で躱す。


 刀は空振りを起こした。本来であれば、その反動は大きく、体勢を立て直すのに時間がかかるだろう。しかし、ザンクウは無駄のない、最小の動きで再び刀を斬り返す。


 この攻撃も見切れる事は出来るだろう。しかし、このように何度も、何度もザンクウが斬りかかってくるこの状況はとてもまずい。しかも、彼の攻撃は素早く、反撃のタイミングがない。このまま押し切られて、いつかトーゼツのように真っ二つになる。


 後方にいるロームフも杖を構え、何か魔術を発動させようと考える。ザンクウとテルノドの間に防御魔術を入れ込み、反撃や距離を取る機を作る。


 が、ロームフ程度が展開できる防御魔術など、たかが知れている。そんなモノは焼石に水だというのもやってみなくても分かっている。さらにロームフはこの場にいる者の中で知識、技術、経験、その全てにおいて圧倒的格下。逆に良かれと思ってやった事が利用されて裏目に出る可能性がある。


 ロームフは悔しさを飲み込み、杖を下げる。


 (あの若いエルフは諦めたようじゃな。であれば、この術師さえ倒せば──)


 ザンクウはこのままいけば、確実に押し勝てる。そのように実感する。


 が、突如としてザンクウの背中に鋭い衝撃が襲いかかる。


 「……ッ!」


 それは先ほど倒したはずのトーゼツであった。再び立ち上がったトーゼツは青く美しい刃をした短剣をザンクウの背中へと突き刺していた。


 「っらァァァ!!」


 さらにそこへ刃に魔力を流し込む。その瞬間、刃を中心に冷気が放出、ザンクウの体内から血肉が凍っていき、動きが鈍っていく。意識もどんどんと無くなっていく。


 そこへテルノドが魔法陣を展開、詠唱を開始する。


 「絶大魔術〈スペティウム・ディストルケオ〉!」


 空間が歪み、それがザンクウへと襲い掛かろうとする。


 「ま、ずい……!」


 すぐさま決死の覚悟で背中を刺してきたトーゼツを強い力で無理やり蹴っ飛ばし、刀で斬撃を飛ばし、その空間の歪みとテルノドをザンッ!と斬りあげる。


 テルノドは咄嗟に避けようとする。が、完全に避け切る事が出来ず、肩にその斬撃が当たる。肩の肉がえぐれ、血が吹き出す。

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