サムライ 5
テルノドもすぐにトーゼツの行動を理解したのか、詠唱を始める。
「上級魔術〈マジック・モールス・アウジェレ〉!」
魔法陣が展開され、その術はトーゼツにかけられる。その直後、トーゼツが肉体に纏わせていた魔力量が一時的に増大し、肉体能力も多少とはいえ跳ね上がる。
それにより、完全にザンクウの太刀筋、動きを見切ったトーゼツはすぐさま上級レベルの防御魔術を無詠唱、無魔法陣で展開する。すると、彼の目の前に大きな壁型のバリアが出現する。
「ッ!!」
トーゼツの脳に大きな負担があったのか、ズキン、と脳が痛む。が、それを食い縛り、展開し続ける。
だが、それはあっけなかった。
斬撃はそのバリアすらも紙のように切り裂き、トーゼツの胴体は真っ二つに斬られてしまう。骨も、肉も、内臓すらも、まるでメスで丁寧に切断されたかのように鮮やかな斬られ方であった。
「マジかよ……」
バリアで守り切れるとはさすがに思っていなかった。が、威力を大幅に軽減出来ると思っていた。無論、軽減は出来ていたのだろう。後方にいたテルノド、ロームフには斬撃が届いていなかったのだから。しかし、トーゼツ自身は完全に斬られてしまった。
「トーゼツ!!」
ロームフは自分を守ろうと前へ出て、怪我を負ったトーゼツへと近寄ろうとするが。
「止めろ、馬鹿!!」
テルノドは首元を襟を掴み、ロームフを止める。
その時だった。
ロームフの鼻先を何かが掠ったかと思えば、再び地面に大きな切断面が現れ、態勢を崩し、川の中へと落ちそうになる。
全く見えなかった。
刀を振った瞬間も、斬撃が飛んできた事も……何もかも感じなかった。テルノドに言われてなければきっと自分は死んだ事にすら気づくことなく、真っ二つになってこの世にはもういなくなっていただろう。
(俺は足手まといなのか…………!)
悔しい。
自分だって戦いたい。
トーゼツに憧れてメイガス・ユニオンを飛び出したのだ。彼の隣で戦いたい。
だが、自分ではザンクウには勝てない事、圧倒的な実力差がある事、それを理解してしまった。心と身体にその恐怖を刻まれてしまった。
もう、自分は上手く立ち回れない。
それを理解したロームフは自分から下がる。
これ以上、足を引っ張るのは嫌だからだ。
「賢明な判断だ!」
そういってテルノドは飛び出し、トーゼツの背後へと回る。
自分の能力を自覚したからか、それとも綺麗に切断されたおかげなのか。もうトーゼツの身体は元通りになっており、切断の跡も分からないほど綺麗にくっついている。
「治ってる……?いや、そんな事は今、どうでも良いか。動けるのなら前へ出ろ!出来る限りのサポートはする!」
「了解!」
そうしてトーゼツは氷の大地を蹴り上げ、再度、ザンクウとの距離を縮める。




