サムライ 3
そんな希少価値が高く、市場になかなか出回らない刀を二本持つ仮面の男。
「おいおい、マジか!!」
テルノドは相手が何者か、知っているよう……というよりも、思い当たる人物がいるようだ。察した瞬間、驚きの声を上げる。
「知ってるのか?」
「えぇ、あれはまずいですよ。あれはメイガス・ユニオンの者じゃない。昔のベスやアイギパーンのように雇われ傭兵。ただ、そんな傭兵の中でも伝説級の男。本名も、出身も不明。ただ分かっている事は神代に失われた職、刀聖を持つ唯一の男であり、アナタの姉であるアナトに届き得る戦士。通称、刀聖ザンクウ……!」
「ほぉ、儂の名前を知っているとは」
ザンクウと呼ばれたその老人は否定することなく、刀を構える。
「儂も有名になったものじゃ。生活するたけの金を稼ぐ、それだけに刀を振るっていたのじゃが……ははっ、名が響き渡るのも悪くない」
仮面の下がそのような表情なのか、分からない。しかし、声色からしてとても嬉しそうだ。
「まぁ、よく分からんが、そんなヤバい傭兵さんがどうして急に攻撃してきたのかね?」
トーゼツもまた、指輪の力で空間から双剣を取り出して戦闘の構えを取る。
「そりゃあ、簡単な話じゃ。そういう依頼を受けただけの事」
「一体、誰に?」
「言わないと分からないかね?メイガス・ユニオンじゃよ。まっ、正確に言うのであれば、メイガス・ユニオンという組織ではなく、シャルチフ会長個人に雇われているのじゃがな」
トーゼツの質問に答えていくザンクウ。依頼内容とか、雇い主とか、そういうのは個人情報、機密情報とかでそう簡単に答えて良いモノじゃないと思うのだが──
(嘘ついているようには見えないし、だからと言ってザンクウの言葉を全て信用するのは危険か……)
こういう己の力だけで生きてきたような人間社会からかけ離れた生活をしているからこそ、何処か抜けてる事も多い。例えば、情報の重要さを理解していないとか……。
ザンクウはそういう者なのかもしれない。
「んで?私たちはここを通りたいだけなんで、退いて貰って良いですかね?」
テルノドはそのようにお願いするが、速攻で「断る」と言われてしまう。
「シャルチフ会長はこのビョルレイレカー川を使ったルートで侵入する可能性が高い、そして本当に侵入者が現れればソイツらを殺せと言って儂をここに置いていたのだ」
なるほど、全てがシャルチフ会長の読みだったわけだ。
しかし、トーゼツ達がこのルートを使ってセレシアへ侵攻したのはサルワ討伐の任務があるからで、今回の戦争とは無関係。シャルチフは一体、何を想定してこのルートを警戒していたのだろうか。
(まっ、今はそんな事、どうでも良いか)
ザンクウは言った。
ここを通すわけにはいかない、と。
であれば無理やり押し通すしかないということだ。




