サムライ
そこは仙国の北部。セレシアとの国境沿い。
国境線が引かれたのはここ百年、二百年ほどの話。かなり昔のように感じるかもしれないが、長い人類の歴史から見ればつい最近の話だ。そのため、今でこそセレシアはエルフ至上主義を掲げ、他種族を下に見る社会を築けているが、この辺りの都市、村は仙国、セレシア両国ともに人間とエルフが共存している場所が多く存在している。
また、人もエルフも互いに蔑むことなく、互いを尊重し、平和に生きている。
それでも国境を守るための兵士が駐屯されていたり、監視し合うようにセレシア、仙国の軍隊が武装して見回りするその光景はあまり平和的なモノには見えない。
そんな仙国北部にはビョルレイレカー川と呼ばれている国際河川が流れている。語源としては古代エルフ語でビョルレイが白、レカーが川という意味になる。そのため、直訳すると白い川川と川が二重してしまうという小ネタが地元民の間ではある。そんなビョルレイレカー川が白い川という名前を持つのか、それは冬になると川の一部が白く凍ってしまうのが由来になっている。
そんな凍っているビョルレイレカー川の上を歩く三つの影があった。
任務でセレシアへと向かうトーゼツたちであった。魔力で身体能力を上げ、体温を上げたい寒い中、警備に見つからないように一切魔力を使わず、寒さの耐え凌ぎながら彼らは歩き続ける。
「しかし、国境警備もザルですね。警備網にこんな穴があるなんて……」
白い息を吐きながらロームフが呟く。
川の中へと落ちれば凍死してしまう。が、実際に歩いてみて分かる。ビョルレイレカー川を張る氷はかなり分厚く、割れて川の中に落ちるということはそうそうないだろう、と。
この川を使って不法に国境超えするのは危険だが、不可能ではない。本来であれば川周辺の警備もより厳しくするべきなのだろうが、甘かったおかげでこうしてセレシアへと侵入する事が出来ている。
「まっ、セレシア国軍も今は冒険者連合との戦争に人員を割いているんだろうな」
「あれ、今回の戦争は組織同士の戦争で軍の介入はしないって話では?」
「そうだよ、だからセレシア軍の一部は除隊してメイガス・ユニオンへと再加入することで戦争参加してるんだよ。ロームフもメイガス・ユニオンに所属してたから分かるだろ?明らかに組織の規模に対して今回の戦争に動員されている魔術師の人数が多すぎるだろ」
そのように言われて、ハッと気づき、確かにと思うロームフであった。
ラジオや新聞だけで情報を取り入れているとはいえ、少し違和感があった。
冒険者連合の方が優勢で、メイガス・ユニオンの負傷者、死者数の方が多いという事を聞いていたが、どうしてそこまで被害が出ているというのにまだ戦っているのだろう、と。
メイガス・ユニオンは決して小さい規模の組織ではない。しかし、冒険者連合が世界各国にギルドを設置するには規模の大きい組織に対し、メイガス・ユニオンはセレシア国内のみの組織。
ただでさえ規模の不利があるのに、人数が減った現在でも戦い続けるのはおかしいと思っていた。が、セレシア軍が加入していると聞けば納得だ。




