過去の記憶
懐かしい夢を見る。
これは七年ほど前の夢だ。
私が居て、アナーヒターが居て、才能が無いと嘆きながらも自分の運命に抗う可愛い弟が居て……それでいてあの人がいる。
背中を預ける事が出来た、あの男がいる。
だからこそ、これが夢だと理解出来る。
そして想うのだ、ずっと醒めないでいてくれ、と。
しかし、現実は残酷だ。
次の瞬間には、場面が移り、あの日へと変わる。
私が槍聖と弓聖の二職しか持っていなかった、未熟だった時。
周囲にはエルフしかいない。白衣を着た、冒険者のように戦いメインではなく、研究することを目的としたメイガス・ユニオンのエルフの魔術師たち。
自分がどうなっているか、分からない。ただ、視界の様子からして培養液で満たされたモノの中に入れさせられていることだけは分かる。そして、隣には彼がいる。
そして彼は跡形もなく液状となり、私の培養液に混ざり──
「……ッ!!」
夢から目を覚ます。
クソみたいな悪夢を見たからだろうか。全身が汗でびっしょり。まるで砂漠に放り出されたみたいに体が火照っている。呼吸も荒い。
あの夢のせいで、此処が何処で、自分が何をしていたのか。混乱してはっきり出来なかった。
「おい、大丈夫かよ、アナト」
そのように声をかけるのはベスであった。
その声に合わせて周囲を確認する。そこはテントの中。遠征中のために設置した、一時間程度で立てて、解体出来る簡易テント。
自分はその中にある、これまた組み立て式の簡易ベッドの上。
あぁ、そうだ。
今は休憩中で、二時間交互にベスと仮眠を取っていたのであった。
「少し昔の夢を見てたんだ。ったく、嫌な気分になったよ」
こんな悪夢を見るのは毎日、エルフを殺しているからだろうか。
それとも──
「ふん、化け物じみたお前でも、悪夢は見るんだな」
「私をなんだと思っているんだ?」
「化け物だよ」
「私は女性だぞ、もっと花のように扱え」
「自分よりも強い奴を花のように扱った所で意味無ぇだろ」
ベスは軽く、ふざけたような笑いを見せながら、テントの中にあるもう一つのベッドへと寝転がる。
「その調子だと二度寝は必要なさそうだな、今度は俺が寝る」
そうして数秒後にはぐぅ、と寝息を立てて寝始める。
彼もまた疲れていたのだろう。毎日歩き、戦っている。アナト同様、エルフを殺し、そして明日には共に戦った仲間が死んでいるような地獄の日々。まだ傭兵の時の慣れがあるのか、他の冒険者に比べればまだまだ元気の方なのだが、それでも精神的にも、肉体的にも参っていてもおかしくはない。
「さて、私も戦いの準備でもするか」
そうして彼女は腕時計で時間を確認しながら、テントから出るのであった。




