戦場の中へ 4
トーゼツは改めて任務依頼書を眺める。
サルワの討伐任務依頼書。
端的に述べると、今回のメイガス・ユニオンと冒険者連合の戦争に彼女が出現する可能性が示唆。
厄災は人の恐怖が根源となっている。
死の恐怖する想い、飢餓や飢饉を恐怖する想い、そして……他者に支配され、自由を縛られる恐怖する想い。忘れられガチではあるが、それが厄災の力の源である。
そして今、恐怖の渦巻いている場所がいくつかあるが、その中でもとびきり恐怖がある場所は──
メイガス・ユニオンと冒険者連合と戦争場所となっている北方の国、セレシア。
人と人が殺し合い、明日には一緒にいた戦友が死んでいるのが当たり前の世界。戦術、戦略によっては補給が切れて飢餓が発生している地域があるというニュースも出回っている。また市民の生活が逼迫、困窮しているというのも考えられる。
その発生している恐怖は一体、何処に向かうというのだろうか?
神代の頃であれば、新たな神が生まれていたのかもしれない。その想いから新たな厄災が誕生していたかもしれない。
だが、人の時代へと移行しようとしている今ではその恐怖、想いを放置していれば、何も生まれることなく、霧散霧消するだろう。
何も問題はないはずなのだ。そう、放置していれば……。
その恐怖を取り込み、新たな力を獲得しようとサルワが画策する可能性がある。だからこそ、戦場を索敵、サルワを発見次第、討伐する。または、彼女の力を増長させないように戦場から追い出すこと。
それが任務内容であった。
「なるほどな、だから案内役にロームフを送って来たわけだ」
ロームフはセレシア出身だ。セレシアも大国、それなりの領土があり、その全ての土地を把握している者はいないと言っても良いだろう。とはいえ、現地出身の者がいるのといないのでは全く安心感が違うだろう。
「それで……受けるんですか?」
ロームフはトーゼツの顔を覗き込む。
もちろん、トーゼツが任務を断ることはないだろうというのは想像出来る。が、それは彼の気分、精神的な面を見ての話だ。仙国襲撃でそれなりのダメージを負ったトーゼツの肉体はまだ完全とは言えない。そもそも、冒険者連合の任務依頼は説明した通り、かなり勝手なモノだ。
問題はそれだけじゃない。
任務に場所はセレシア、つまり戦争地域に入るという事だ。そんな場所はトーゼツの精神的苦痛を与えることになるだろう。そのうえ、メイガス・ユニオンという敵とも戦う事になる。
ロームフとしては、あまり受けない方が良いと思っている。
トーゼツも、それが分からないほど馬鹿じゃないだろう。
だが──
「無論だ、ここでじっとしておくのも性に合わないからな」
そう言って任務依頼書を綺麗にたたみ直し、封筒に戻す。




