戦場の中へ
トーゼツは目を覚ます。
見慣れた場所ではないが、全く知らない場所でもない。そこは仙人であり、この国の皇帝である天玉仙帝の住む霊霄殿であった。
ベッドから起き上がり、近くの窓から外を眺める。
霊霄殿の庭には多くの肉塊が並べられていた。しかも、その肉塊は蠢いており、生きているのが分かる。また、都市内の建物はあちこちが崩壊、焼けて消滅しており、一ヶ月前まで活気沸く仙国の首都だったとは思えない状態であった。
「はぁ、分かってはいたが……見るべきじゃなかったな」
そう呟き、窓から目を逸らす。
サルワ達がコーゲンミョウラクを攻めてきて数日が経った。
神都のように完全崩壊することはなかった。が、多くの被害が出て、復興作業にもまだ手がつけれていない、まさに地獄のような場所と化していた。安否確認も出来ない者が多く、親を失った子供もいっばい居る。生き残った者たちは明日も生きていくための食べ物が無く、飢えている。兵士たちも、軍から脱退し、賊のように他者から奪って腹を満たしている。
また、ぐちゃぐちゃの肉塊にされても、天玉仙帝の与えた不死によって死ぬことも出来ず、苦しみながら肉塊となって街中に散っている。
この地獄の状況に対し、広い国土を持つ仙国、その国内にいるありとあらゆる人員を掻き集め、皆がなんとかしようとしている。が、やはり首都が壊滅状態というのは予想以上の混乱を招いているようだ。
「おっ、もう起きていたんですね」
ガチャリ、とトーゼツの部屋へ入ってくるのは魔術学連合で厄災研究を行っている魔術師であり、今回、トーゼツの監視役を任されているテルノドであった。
「あぁ、さっき起きたばっかだ。今日もダメか?テンギョクはまだ目覚めないのか?」
「えぇ、意識の覚醒はまだ……」
先日の戦いで、深傷を負い、消耗しきった天玉仙帝はずっと眠ったまま起きない状態であった。命に別条はなく、また国民の不死性が消えていないことから肉体的には何も問題はない状態だという。とはいえ、国民の不安は多く、また地方の権力者や天玉仙帝の直属の者の間ですら情報錯綜し、反逆を企てようとする者もいると聞く。
仙国数千年の歴史の中で、天玉仙帝は常にこの国の中心に居て、全てを決断、実行してきた。だからこそ、いつ覚醒するかも分からない眠りに落ちた天玉仙帝に対して大きな不安が募っているのだ。
また、天玉仙帝をどうするか、でも意見が分かれている。
このまま目覚めるまで待つか。自分たちでこの国の運営を行い、この首都の状況を変えるか。もしくは、誰かは天玉仙帝の代理として王になるか。もしくは──
本来であれば、そのような騒動も天玉仙帝の直属の兵士であるワンウーやバイフーと言った四方星の仕事であるのだが、ワンウーもまた致命傷を負い、治癒術師に優秀な医者の元で集中治療を受けている。残った四方星も情報錯綜しているこの状況で上手く立ち回れていない。
明らかに仙国という国が弱体化している。
そのうえ、もしもこの弱体化した仙国を攻めようとする国があれば──




