次のステップ
「へぇ、こういう風になったんだ」
それは時間と空間、次元すら異なる場所から世界を覗いていた外界の者であるアニマ・ムンディの呟きであった。
トーゼツの中に想いの力が渦巻いているのは分かっていた。そして、それが調和神アフラが彼を認めた理由であることも察していた。だからこそ、アニもトーゼツの成長、動向にとても注視していた。
調和神アフラが計画の中心にトーゼツを据えたからこそ、彼の周りでは常に事件が起きる。彼の周りだからこそ、色んな者達が集まる。そして相容れない者たちも、トーゼツを認めて共に歩む者達にも、影響を与えていく存在と化していく。
今、トーゼツに対して色んな想いが向けられている。
憧れや尊敬といったモノ、職が無くても前へ進もうとするその姿を誇らしく思えば、どうしてそこまで抗うんだと恐怖するモノ、そして──
「ははッ!でもまだまだ一段階目に入ったかどうかも怪しいな。ったく、サルワが先か、トーゼツが先かのどっちかだな」
さらにこの世界が面白いことになる、それを確信したアニは一人でニヤニヤと笑い続ける。
「楽しそうだな」
本来、アニしか存在出来ない、この特殊な空間に現れたのは意外な相手だった。
「こんな所にも来れるんだな、アムシャ。私と戦いに来てくれたのかい?」
アニは肉体に魔力を纏わせる。
トーゼツが調和神アフラやサルワと戦っているその姿はとても面白いモノであったが、基本、彼女は見るよりも自分で行動する事が好きなタイプであった。ゆえに目の前に現れたアムシャと戦えるかもしれない事に興奮しながら、戦闘態勢を取る。
それに対し、アムシャは一切、彼女に興味がないようで、淡々と告げる。
「ふん、この世界内部に展開されているのであれば、別時空でも、別次元でも、私は介入出来る。であれば、だ。その気になれば貴様を内部から破壊することも可能だ。試しにやってみるか?」
彼の実力、そして口調から全く嘘をついていないことが分かると、アニはつまらなさそうに解放した魔力を体内へと戻す。
「はぁ、だったら何しに来たんだい?」
「釘を刺しに来たんだ。お前、トーゼツにちょっかい出すつもりだったろ?」
「今はするつもりはないよー」
「"今”は、だろ?お前の事だ。トーゼツをおもちゃか何かだと思っているのかもしれないが、アイツはこの世界にとってまさに特異点とも呼べる存在。人が神を超え、その後を追うように人類全体が神々という存在を超えていく。トーゼツを潰せば、その可能性がなくなるかもしれない」
「そうだね、まさにトーゼツはファーストペンギンだ。だからこそ、私はずっと目をつけてたんだけど……。はぁ、しょうがないね。私は自分よりも少し弱いやつを蹂躙するのが好きなのであって、殺し合うのは好きじゃない。アナタと戦うのはリスクが高すぎるし、大人しくしておくよ」
アニはとてもつまらなそうな表情でアムシャの言葉に返事する。




