破滅 20
トーゼツはせめてもの抵抗に空中でいくつもの魔法陣を描き、術を展開する。
「上級魔術〈フレイム・バースト〉!上級魔術〈へイル・フォール〉!上級魔術〈ボルト・オブ・ライトニング〉!」
次々と詠唱し、そのたびに魔法陣から炎や氷、雷が地上にいるサルワへ向かって放たれていく。しかし、彼女はセプターを右手で構えたまま、空いた左手だけではじいていく。
「エネルギーを過重消費した状態でも、さすがに上級レベルの術に負けるわけないだろう!!」
そう言いながら、どんどん風をトーゼツに向けて送り込む。
諦めずに魔力を生み出し、色んな術を展開していく。が、全てが無駄に終わり、高度が上昇していく。どんどん空気が薄くなり、呼吸が難しくなる。気温が急激に下がり、周囲の水分が氷になっていく。髪の毛は凍り、吐く空気は真っ白。眼の水分も奪われる。
このままでは大気圏を突き抜け、宇宙にまで行ってしまうだろう。この世界において、まだ人類は星外へ出たことはなく、研究も進んでいない。酸素が無いことも、トーゼツは知らない。しかし、このままではただでは済まないことは理解していた。
「……まずいな!このままじゃあ──」
そこでトーゼツは一つ、手を思いつく。
自分の持つ神代の遺物の中にある魔布。全ての力を受け流すことの出来るあの布であれば、支配の力も、重力も、トーゼツを星の外へと押し出そうとする全ての流れを逸らすことが出来るかもしれない。
指輪の力で空間に穴を開け、魔布を取り出す。そして、全ての力を逸らそうと布を翻したその時。
「ッ!」
ずっと感じていた浮遊感が消滅し、元に戻った重力によって一気に地面へと引き寄せられる。どんどん地面との距離が縮んでいくたびに身体に襲い掛かる重みが上がっていく。それは先ほど、サルワが重力で押しつぶそうとした時以上のモノであった。
隕石のように、大気とトーゼツの肉体との摩擦が起こる。身体もどんどん熱を帯びていき、凍っていた髪や服が少しずつ燃え始める。
体中に魔力、想いの力は纏った。それでもこれほどの熱量に、地面との落下衝撃を完全無効化出来るかどうか、分からない。
だが、恐怖はない。
自分の心に触れ、己の能力を理解した今ならば──
「何度でも立ち上がってやる!!」
「おいおい、アイツ、何も考え無しで落ちてるのか!?」
地上でずっと空へと吹っ飛ばしたトーゼツを確認していたサルワは彼のクレイジーさに驚いていた。
このまま宇宙まで吹っ飛ばされるような玉じゃないと思っていたが、無効化した後、さすがに無事に降りて来る手段を考えていると思っていた。
さらに、どんどん近づいてくるトーゼツに対してサルワは察する。
「待て待て、アイツ、俺の場所に落下しようとしてないか!?」
今や、トーゼツは隕石そのものといっても過言ではない。
隕石というのは十メートルほど無いと大気圏で燃え尽きるという。逆に言えば、それを耐えきって落ちる隕石は、それに耐えきるほどの密度、質量、エネルギーを持っていると言える。
それに直接、ぶつかればサルワもただでは済まない。




