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破滅 17

 トーゼツとサルワの距離は一メートルほどまで縮む。


 トーゼツの歩みは止まり、二人は互いをまるで籠の中の虫を観察するかのように見合っている。


 その姿を見て、今すぐにも消えてしまいそうな調和神アフラは安心していた。


 (どうやら彼は……次のステップへと上がることに成功したようですね)


 彼女の計画ではもう少し先の事ではあり、予想外の事ではあった。が、これはサルワのような奇禍きかではなく、僥倖ぎょうこうであり、喜ぶべき状況であった。


 (今のサルワに対してであれば、彼の力は届き得るでしょう)


 ようやく見えてきた。


 神々から脱却し、物理世界(カーマ)から概念世界(ルーパ)へと変化し、人間が人間を信じることが出来る時代が。


 そうして彼女は再び消えていく。


 全てをトーゼツへと託して。




 「おい、聞いてないのか?俺の名前はサルワだ。支配の厄災というのは、俺が父である悪神の力に縛られていた時の名前だ。俺は今や自由の身であり、あらゆるモノ全ての頂点に立つべき存在となったのだ。キサマも俺をサルワと呼べ」


 サルワの表情は怒りと嗤いが混じったモノで、しかし声色はその感情を抑えた、淡々としている口調であった。


 「知るかよ、厄災」


 それに対し、まるでさらに怒りの燃料を投下するように挑発口調でトーゼツは言う。


 「お前は他の厄災を兄弟と呼んで、その力を取り込んでいるだろ?お前が本当に自由の存在となったんだったら、厄災の力に頼るなよ」


 「違うな。全てを超えた存在だからこそ、天玉仙帝に調和神アフラといった神代の者たちを支配下に置いたうえで、兄弟たる全ての厄災を取り込み、最終的には父なる悪神すらも自分のモノにするのだ」


 「俺の答えになってないと思うが?」


 さらにサルワとトーゼツの眼は睨み合いに変わっていき、互いの口調もさらに感情を含めた激しい言い方になっていた。


 「……まぁ、良い。私はイエスマンだけを求めるような愚者ではない。私もまだ完全な存在ではないからこそ、支配した後の世界じゃあお前みたいな自分の意見を持っている奴は必要だからな。特に、実力すらも無視して意見する馬鹿はな」


 「んだったら、もうちょい馬鹿みたいな事してみることにするぜ!!」


 そういうと、一メートル前後という至近距離から遠慮なく魔力球をサルワに向けて撃ち込む。


 サルワと魔力球が触れたその瞬間、ボンッ!と強い爆発が発生し、凄まじい熱風が舞う。


 成長して彼女であってもさすがにこの至近距離、さらには突然の攻撃であった事も合わせ、避ける事も受け止めることも出来なかったようだ。


 しかし──


 「ふぅ……さすがに痺れたな」


 擦り傷程度の血が流れているだけ。骨が折れたり、肉が裂けたり、内臓にまでダメージを負うと言った深傷(ふかで)まではいかなかったようだ。それでもなお、血は流れているうえ、一部の筋肉がまるで痙攣しているかのようにピクピクと動いている。彼女のいうとおり、痺れる程度のダメージは与えることに成功していると見て良いだろう。

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