破滅 16
ようやくサルワの体も落ち着く。痛みはまだあるが、血は止まった。そこからして彼女は現在の状況をし始める。自分が勝負では勝ったのだ、と。
「は、ははッ」
笑いが溢れ始める。
「はははははははははッ!私はやったぞ!調和神アフラの一撃を相殺してみせたぞ!!」
弱体化しているとはいえ、遥か昔、神々を支配し、世界を我が物としていたあの調和神アフラの一撃と同等の火力を出せたのだ。これほど嬉しいことはない。
さらには、まだまだ自分は成長途中である事を鑑みれば──
「俺は!全盛期の調和神アフラレベルの……いいや、違うな!神々では倒しきれなかった我が父である悪神すらも凌ぐ力を持てる可能性があるのだ!!!!」
高らかに笑う。
これまで自身の成長だけを目的にしていたが、一体、どこまで自分が伸びるのか。分からなかったからこその不安があった。もしも、他の厄災を取り込んでも、もし自分の権能を成長させても、自分が最強になれなければ──
だが、自分の限界がようやく見えてきた。
自分の限界はどんな存在も手に届かないほどの高み。圧倒的な力。
まさに世界を支配可能という証明である。
「調和神アフラ!お前は失敗したのだ、この俺を殺せる最後のチャンスを!!ははははははッ、もう誰にも止められない!私の覇道を────」
その時だった。
まだ若干、土煙が残る中、彼女の背後から立ち上がる一つの影。
無視できないほどの凄まじい気配。殺意に似た、しかし明らかに異なっているその気配は闘気。ここでサルワを倒してみせるという覚悟の気配であった。
一体、何者だ。そう思い、確認しようと振り返った瞬間にサルワに強い衝撃が奔る。足の踏ん張りが効かず、そのまま数十メートル後方へ吹っ飛ばされてしまう。
「ッ!!」
油断はしていた。とはいえ、今のサルワを吹っ飛ばしてしまうほどの力を持っている者がいるのは想像出来ない。もしも出来る存在がいるとすれば、それは人類の頂点に立つアナトと、最後の神であるアムシャぐらいか。いや、外界の者たちも含めば例外はいるのだが──
「一体、何者だ!?」
空中で腕を回し、腰を捻って態勢を整え、地面に上手く足から着地して見せる。
サルワの視線の先、そこに立っていたのは一人の少年であった。
ボロボロの姿で、あちこち血だらけ。しかしその眼の中にある覚悟は強く、決して侮れない相手であるのが分かる。そう、その少年の名は──
「トーゼツ・サンキライ……か…………」
「おう、久しぶりだな。支配の厄災」
トーゼツはゆっくり、歩きながら自分で吹っ飛ばしたサルワへと近づいていく。
彼の肉体に纏っている力は魔力だけではない。神々を構成する力であり、現代の魔術でも、科学でも解明出来ない人類の力。厄災すらも簡単に凌ぐ想いの力であった。




