破滅 15
トーゼツの思考を読み取ったもう一人の自分は、「ははッ!」と笑う。
それはやはり馬鹿にするような笑いであったが、先ほどのような嘲笑のようなモノではない。ようやく気付いたのか、と見直しながらも、飽きれた笑いであった。
「やっとそこまで理解したか。だが、俺はまだ完全に信じちゃいねェぞ。これまでの愚行が無かったことになるわけじゃないからな」
『分かっている』
「また、お前が自分の想いを抑え、矛盾した行動を取り続けるのであればその時は──」
『そうだな、その時はお前に俺をくれてやる』
トーゼツの表情は覚悟を決めた顔になっていた。
これまでは諦めないだけだった。後退しないことを理解していた。だが、今は違う。前を見て、改めて自分の進むべき道を確認した。あとは一歩ずつ、踏み出すだけだ。
「良いだろう、お前に肉体を、力を──」
その言葉と共に世界が反転する。
真っ黒な世界から、真っ白で、鮮やかな世界へと変貌していく。
『返してやる』
「ありがとう、行ってくる!」
トーゼツは歩き始める。
未来に向かって…………。
気づいたその時、世界は物理的にとても濁って見えた。それは土埃だった。まるで爆撃されたかのように、周囲に大量の土が粉のように舞っているのだ。
そんな濁った世界の中から現れたのは──
「はぁ……はぁ……!」
その激しい息切れはサルワのモノであった。あれほど肉体に大きな負担をかけてしまったのだ。肉体疲労は想像を絶するモノのはずだ。無論、それだけではない。
「ッ、あァ……!!」
口や鼻から血がポタポタと垂れ流れ始める。
肉体疲労で済むだけの話ではない。大きくかかった負荷は傷となっているはず。きっと彼女の中はボロボロだ。骨は軋み、筋繊維は引きちぎれ、内臓はズタズタになっていることだろう。
それに対し、彼女と戦っていた調和神アフラは余裕の表情であった。しかし、体の一部が砂となってサラサラと散っていく。レヴァレ・ケルムから放った一撃は現状出せる最高火力で放ったのだ。想いの力も、魔力も、あらゆるエネルギーを過度に消費しすぎ。ゆえに肉体の維持が出来ない状態であるのだ。
調和神アフラは悔しく思いながらも、消えていく自分の肉体を眺めていた。
(まさか、同等の力だったとは……)
レヴァレ・ケルムと〈コーキュロー〉、〈エスターブ〉の衝突は意外な結果で終わった。
そう、互いの力はほぼ均一状態であったがゆえに相殺され、同時に霧散霧消したのだ。
だが、勝敗で語るのであれば、それはサルワの勝ちと言える。
調和神アフラはサルワを殺すつもりで放ったレヴァレ・ケルムの一撃は文字通り、世界を崩壊、再創造させる最強の技。本来であれば対応不可能だ。それを体に無茶を言わせて、なんとか相殺してみせたのだ。
ここでサルワを倒せなければ今後、世界がどうなるか、調和神アフラでさえ予測不可能だ。




