破滅 14
思っている以上に力が拮抗しているようだ。どちらかが、掻き消されることもなければ無産霧消する気配もない。しかし、ありえないレベルのエネルギー同士がぶつかることで凄まじい影響を周囲に与えている。
レヴァレ・ケルムによって時間、空間と言った概念すら歪んでいく。距離は伸び、縮み、消えていく。時間は遅くなり、速くなり、あらゆる物質、光の動きがおかしくなる。
サルワの〈コーキュロー〉、〈エスターブ〉の二つの技は超密度高エネルギーということもあり、凄まじい熱と光がはじけ、大地を溶かしていく。
「私のレヴァレ・ケルムの力を止めるなんて……!!」
「二つの力を以ても突破出来ないのか……!?」
互いに互いの力に驚きながらも、ただひたすら己の力を信じ、立ち続ける。
この二つの力が衝突した結果など、どうなるのか、誰も分からなかった。
そんなサルワと調和神アフラの戦いの最中──
そこは真っ黒な空間。
何もない、寂しい場所であった。
気づけば、自分はそこにいた。
彼は歩き始める。此処が何処で、どういう場所なのか。言葉で説明出来なくても、感覚で理解していた。だからこそ、自分が行くべき場所が分かっていた。
しばらく歩き、彼は立ち止まる。
会うべき者と彼は出会う。
「ちぃッ、肉体の破損が大きすぎるな。線維芽細胞に白血球……くそっ、細胞一つ一つの疲労が溜まりすぎている。分裂して傷口を防ごうにも──」
そのようにぶつぶつと呟くのは、もう一人の自分であり、それは理想の姿。トーゼツ・サンキライの肉体支配権を奪い取ったナニカであった。
「おっと。今更何しに来たんだ、俺?」
それは嘲笑うように、挑発するかのように尋ねる。
『俺の身体を返して貰いに来た』
「ははッ、何を言っているんだ?」
彼はさらに、トーゼツを馬鹿にするように答える。
「お前は自分の力さえ理解することもせずに、ただ理想は理想、現実は厳しいモノだと言い訳して、矛盾の行動を取った。自分の気持ちに現実を言い訳に逃げた。お前は理想を可能にする力を持っていながら、周囲の者たちに期待されながら、それをしなかった!まさに怠惰!愚行!許しがたい横暴だ!!だから、この俺がお前の肉体を有益に利用してやることにしたんだよ」
その言葉はトーゼツの中に響く。
確かに、その通りだ。
物語や神話、歴史上で語られる英雄、勇者になりたい。人々を、世界を救いたい。それが自分の行動原理であり、理想だ。それを自分は心の何処かで、子供じみたモノであり、現実は違うと思っていた。自分には無理だと考えていた。
ただ、諦めなかっただけ。自分も出来るかもしれないと信じ続けただけ。
そうだ、『出来る』ではなく、『出来るかもしれない』。
可能性ならばあると信じ続けただけだったのだ。
いつから、諦めない事が重要だと考えていたのだろう。前を向くだけではなく、一歩ずつでも理想に向かって歩いていこうと考えなかったのだろうか。




