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破滅 9

 泥すら跳ね除ける事の出来なくなったトーゼツは指輪の力で槍を取り出し、体を伝って這い上がってくる泥をどんどん薙ぎ払っていく。のだが、その抵抗は虚しく、もう首元までやってきていた。


 この蠢き、群がっている泥はトーゼツの体を分解し、同じ泥にしようとしてくる。


 「ふザケ……る、なァ!!!!」


 槍も捨て、素手で体に這いつくばる泥を無理やり剥がそうとしている。だが、それも無駄であった。


 「こン、ナ……所で…………………………」


 トーゼツの口や鼻の中にも侵食していき、とうとう泥と一体化してしまった。


 (アルウェスの時はこれほどの力は出せなかったことでしょう。これでも、全盛期とはいきませんが、物質だけでなく、空間や時間といった概念の操作もある程度出来るまでには出力が安定していますね)


 漆黒の空間が歪み、そこから調和神アフラが顔を出す。


 まだトーゼツの気配がある。まぁ、どうせ殺し尽くした所で、固有技能によって何度も生き返るのだ。無理に殺す必要はない。あとは暴走している彼の意識を沈め、本来のトーゼツを叩き起こすだけ。


 本来であれば、それは困難な事ではあっただろう。


 心、精神というのは不可解な点が多いモノだ。生物学的にも、魔術学的にも解明されていない事が多い。もちろん、魔術によって精神操作を行ったり、薬や催眠術を用いてトラウマの克服や治療などを行っている。が、ほとんどの者がその仕組みをあまり理解していない。どうなるのか、その結果が分かっているから利用しているだけに過ぎない。


 まぁ、仕組みを理解していないモノを考えずに使う事は人間ではよくある事だろう。燃焼という科学現象が酸素を用いて発生している事。病気が治るからということで擦り潰し、調合されていた薬草。なぜ、そうなるのか。どうしてそういう結果になるのか。そんな事を気にする人などほとんどいない。調理できる、獣を追い払える、体調が良くなる。とりあえず良い結果が起きるから人々はそれらを利用するのだ。


 そして、それは調和神アフラでも同様である。


 無論、神の身である以上、人間よりも多くの技術、知識を持っている。が、その半分以上は自身でその仕組みを理解していない事がある。精神、心なども同様であった。


 しかし、今は調和新アフラが世界を自由に書き換える事が出来る創造世界。上手くやれば、トーゼツの精神に介入することも可能であろう。


 「さぁ、戻ってくるのです。トーゼツ・サンキライ!!」


 泥の中からボロボロの姿で意識を失っている彼を引っ張り出し、意識を送り込む。どんどんトーゼツの精神内部へと侵入し、核であろう場所へと到達しようとしていたその時──


 バキバキバキッ!と漆黒の泥の世界にヒビが入る。


 「これは……トーゼツ、の力ではないな!?」


 外部からこの世界へ侵入しようとしている何かがいる。


 何者かは知らないが、まだトーゼツの精神を呼び起こせていないこの不安定な状況で創造世界が崩壊してしまえば、彼の精神がどうなってしまうのか。


 調和神アフラはなんとか抵抗しようとするのだが、気づいた時にはもう間に合わない。


 バキンッ!と大きな音と共に物理世界が顔を出す。

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