破滅 8
世界は暗闇に包まれる。
トーゼツの視界からは、世界そのものが崩壊したように見えた。
だが、それは違う。
最高神の中でも、神々を王として君臨していた調和神アフラでもそれは不可能と言い切れる。
それに、世界が本当になくなったのであれば、なぜ自分は生きていられるのだろうか。呼吸も出来る、血液の循環も感じる。汗も、体温も……全てが実在している。
であれば──
「神ジュつといエ…ド、キサマ程ドでこの俺は…………!!」
トーゼツはこの世界から脱出しようと、エネルギーを生み出そうとするが、その瞬間──
「ッ!!!」
足元から何かが這い寄ってくる。
それは無限の泥。
神話の中で語られる、世界を創造した泥である。
まるで意思を持っているかのように、蠢き、トーゼツの体を飲み込もうと、どんどん這い上がってくる。
「くッ…そがァ!!」
トーゼツは想いの力を一気に放出し、泥を跳ね除けていく。
「はぁ、はぁ……!」
しかし、その泥は跳ね除けただけ。消したわけでもない。再びトーゼツの方へと近づいていく。
『無駄ですよ』
その声は調和神アフラのモノ。しかし、彼女の姿は見えない。何処からともなく、この漆黒の泥の世界にただ、彼女の声だけが響く。
『半径二百メートル内のあらゆるモノ、万物を書き換えました。どんなに力を持っていても、どんなに高出力で暴れても……もう無駄なんですよ』
「無駄カ、どうカは……キさまが決メル事じゃァ、無イ!!!!」
トーゼツはさらに肉体内部に生成した全てのエネルギーを放出し、世界を破壊しようと試みる。
確かにこの漆黒の世界は調和神アフラの世界なのだろう。だが、所詮は物理世界を上から塗り替えただけ。無理やり剥がしてしまえば、再び元の物理世界が顔を出すはず。
(まだこれほどの力を……。しかし──)
パチン、と調和神アフラは指を鳴らす。その瞬間だった。
「ッ!?」
消滅した。
理解出来ない。
先ほどまで無限のように溢れていたエネルギーが、生み出せない。魂から魔力を生成し、体内から外部へと放出しようとする。が、またもや消滅していく。
泥がどんどんトーゼツへと向かってくる。
「ナニが、……いった、イ!?」
『この世界からあらゆるエネルギー場を消滅させました』
まだこの世界の科学では理解出来ない範疇の話なのだが、物理学上では『場』というモノが存在している。例えば、重力が発生出来る場所には重力場が。電磁が維持出来る場所は電磁場が。そして、物質が存在出来る場所には物質場が存在している。
そして今、調和神アフラはこの漆黒の世界であらゆるエネルギーの『場』を消滅させたのだ。だから、トーゼツは魔力も想いの力も生み出せない。何せ、エネルギーが存在出来ないのだから。




