決着 6
倒れていた黒い影もまた、灰になって風に乗って消えようとしていた。
「やった……の…か?」
ミトラはつぶやく。
数千年、人間を苦しめてきたもの。神代の時代から残っていた、邪神が残した十五の厄災。そのうちの一つを、自分たちが倒し、こうして目の前で消滅しようとしているその事実を、脳が処理しきれずにいた。
また、膝が折れ、その場で倒れ込んでしまう。
それは、彼女もまた、アナーヒター同様に魔力を全部使い切ってしまったからであると同時に、勝ったことによる安堵によって全身の筋肉が弛緩してしまったためであった。
その場で二本の脚で、問題なく立てていたのはトーゼツだけであった。
「もう戦いは終わった、安心して良いぞ」
「そう、だよね。じゃあ、あとは任せるよ」
そういって、ミトラは目をつむり、そこで眠ってしまう。
また、アナーヒターも、肉体的にも精神的にも疲労していたため、ミトラ同様、寝てしまっていた。
トーゼツは、剣を持ち、黒い影へと近づく。
その黒い影のそばには、最期に振り下ろした一本の刃が地面に突き刺さっていた。
「あっぱれだったぞ。戦士として、最高の戦いだった」
彼は、死にながらも言葉を紡ぎ始める。
「……ハハッ、神は人の想いから生まれる。我々、厄災はその神から生まれてきたもの。間接的ではあるが、人から生まれたのだよ。私たちは。だから、いつか人に倒されるのだと、分かっていた…。分かっていたはずだがな……こうして本当の終わりを迎えようとしている今なお、死ぬことに恐怖を感じている」
あんなに大きく、硬い鎧を纏い、こちらに襲い掛かってきた刃の厄災だと思えないほどの姿と発言に少しトーゼツは驚きながらも、彼の最期の言葉に耳を傾ける。
「不思議なものだな。恐怖の想いによって生まれた我も、死ぬことに恐怖するとは。まったく、矛盾している。我自身、驚いている……」
その言葉を聞いて、トーゼツは
「アンタらも、生きていたという証だな」
そのように言葉をかける。
「結局は、アンタも必死に生きていたんだ。諦めず、前へと。数千年、多くの被害を与えてきたことを俺は許さないし、きっと人類も語り継いでいくだろうな。『滅ぶべき存在』だったってな。だけど、俺たちとは違うものが一つある。それは、『生きていく理由』だ。俺たちは、理由があって生まれてくるわけじゃない。死ぬまで生きる理由を諦めず探すのが、俺たち人間だ。だが、厄災であるアンタは『恐怖させる』ことが目的で生まれてきた。そして、この数千年間、その目的のために前へ進み続けてきたんだ。諦めず、ひたすら障害を打ち破りながら。自分の生まれてきた理由に対し、真摯に生きてきたことに関しては、俺は賞賛するよ」
その言葉を聞いて、刃の厄災は安堵する。
「あぁ、良かった。生きていた理由も、意義も、そして消える意味もあったのか。それならば―」
彼のその言葉は風と共に去っていこうとする。
「安心して、逝けるなぁ………」
その言葉が、正真正銘、最期の言葉だった。
一つのかけらも残さず……。
(厄災、か。多くの人を苦しめてきたコイツも最後の最期で、報われたのかもな)
その風に飛んでいくかけらを、トーゼツは完全に見えなくなるまで、目で追い続けていた。




