破滅 2
天玉仙帝は自分の集めたエネルギーへと左手を伸ばす。
「何、このまま放つとは誰も言っていないぞ……」
天玉仙帝の集めたエネルギーの中に流れが生まれ、渦を巻いていく。ギュルギュルと強い音を鳴り響かしながら、そこからさらにまるで粘土でも捏ねるかのように形を与え始める。
それはまるで弾丸のような形であった。変わらずギュルギュルち回転するような流れを作っている。
なるほど、巨大な魔力弾か。
魔力球と魔力弾は、ただ魔力の塊を放っているという点では一緒である。が、起こる結果が異なる。魔力球は破壊力が大きく、目標物に触れた瞬間に爆発する。そのため、集団戦において多様されることが多いが、一対一ではさほど驚異ではない。それに対し、魔力弾がその名称通り、弾丸のような形にして魔力の塊を射出することだ。これは魔力球のように破壊力があるわけではなく、また周囲に与える影響は少ない、が、貫通力、速度が魔力球に比べ高く、一対一の戦いでそれなりに発揮する。
きっと天玉仙帝は今回の勝負で死ぬ覚悟を決めたのだろう。だが、ただで負けるつもりもないらしい。
最初は自分の放つ術と、天玉仙帝の放つ魔力球で鍔迫り合いのような拮抗状態を作るものだと思っていた。が、そうではない。サルワの放つ術ごとサルワを貫通し、私を殺そうとしているのだ。私の術は貫通した程度で霧散霧消することはない。私が死んだ後は、今度はサルワの放つ術で天玉仙帝が死ぬのだ。
「戦いに負けても、勝負では絶対に負けん!!」
まさに天玉仙帝の言葉は、心の底から這い出た、迫力のある言葉であった。
サルワは本来、人の時代を迎えるために倒されるべきだった厄災。それが他の厄災を取り込み、自身の支配の権能を成長させることで天玉仙帝を倒せるほどまでに成長してしまった。
これは調和神アフラですらも決して想定していた所ではないだろう。
自分が死ぬ分にはまだ良い。人へと時代を明け渡す時が来ただけなのだから。しかし、この厄災であるサルワに時代を明け渡すわけにはいかない。
その自分の死に場所を決めた覚悟と、サルワを絶対に殺すと決めた叫びだったのだ。
ここにきてサルワは改めて天玉仙帝がこの国を数千年、支配し、時には全盛期の力を持った調和神アフラとも正面から戦っていたまさしく英雄であり、最高神であり、仙人の帝王と呼ばれるのに相応しい存在であると理解する。そして、サルワもいずれ、この世界を支配しようと考えているからこそ、彼のその姿は自分が目標にすべき姿なのだなとも思うのであった。
しかし、サルワはトドメの一手に絶大級の術を放つのを決めただけだ。トドメを刺すということだけを考えれば他の手段もある。そもそも、サルワの目的は天玉仙帝を殺すことではない。
しかし──
「なるほど、面白い。術ごと私を撃ち抜けるかどうか……勝負といこう!」
決して合理的判断ではない。
だが、今後もアナトや他の厄災。アムシャなど強敵と戦うことになるは自明の理。というのに天玉仙帝を真正面から打ち倒すことすら出来ないのは大問題だ。
だからこそ、戦うことをサルワは決めたのだ。