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内の覚醒 20

 肉塊となったトーゼツの死体が動き出す。


 細胞が活性化し、凄まじいスピードで分裂し、膨れ上がり始める。そのまま千切れていた肉と肉同士が結合う。その後、血管や神経が繋がり、骨が生成されていく。


 ここまで、たったの三秒。どんどん元のトーゼツだった頃の姿へと戻り始める。とはいえ、当たり前の話だが、体の一部ではない服は破れた状態のままだった。仕方のない事とはいえ、戦っている最中に全裸になるのは嫌なモノだな、とファールジュは思うのであった。


 さて、起き上がったトーゼツはどう来るか。予測し、警戒して杖を構える。


 が、その時──


 ゾクっと恐怖を感じる。それは理屈や理論的ではない。これは危険だ、ここに居てはいけないという本能から恐怖が生まれたのだ。


 一体、何だ?


 自分の本能は一体、何を察知し、恐怖しているのだ?


 「な、んだ?これ……は……………?」


 それは莫大なエネルギー。電気でも、熱でも、運動エネルギーでもなければ、魂から生成する魔力エネルギーでもない。魔術学でも、物理学の中にもない。現代の学問上では存在しない力がトーゼツを中心に発生しているのだ。


 魔術学連合の中でも一流の研究者だったファールジュでも理解出来ないその力に、人智の知れないその領域に踏み込もうとしている自分に恐怖を覚えてしまう。


 恐怖してしまったのだ。


 『今……この俺に恐怖したな?』


 そんな声が周囲に響く。


 トーゼツを中心に渦巻いていたエネルギーが世界に侵食し始める。


 大地も、空も、空間さえも、黒く染まり、何も見えなくなっていく。


 「世界を書き換える力……?こんなの、聞いていない!!」


 トーゼツの固有技能は『不屈の魂』。諦めない限り、何度でも蘇ることが出来るという特異でありながらも、また魔術学で仕組みを解明出来る範囲も、人智内の能力だったはずだ。


 こんなの……こんな能力……絶対にありえない。あってはならない。


 目の前で突然起こっている事象に脳の処理が出来ず、ただ突っ立っているファールジュの前に一つの影……いいや、光というべきだろうか。それは人の形をした光が現れたのだ。


 「ファールジュ、ここは逃げなさい。アナタでは対処出来ません。ここはから──」


 光の姿が徐々に物質化していく。


 ファールジュはソレを知っていた。だが、同時に自分は夢でも見ているのではないか?と考える。


 それは消えたはずの者。


 いるはずのない存在であった。


 「私、調和神アフラに任せてください」


 死の厄災、その力を持って消滅したはずの神であった。


 「今、彼の中で発生しているのは神の力です。火や水、大地に空を畏怖し、尊敬する事によって神が生まれたように……今のトーゼツは周囲の人の想いを反映する力を持っています。詳細を説明している暇はありません。アナタがいると足手纏いです。ここから離脱を」


 ファールジュは色々と言いたいような雰囲気であったが、その気持ちを飲み込み、彼女は調和神アフラの言う通りにして去っていく。

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