内の覚醒 19
気づけば、真っ黒な世界にトーゼツは立っていた。
ここは何処だ?
自分は何をしていた?
何も思い出せず、しばらく放心状態でそこに立ち続けていた。が、まるで急にスイッチが入ったように全てを思い出し、トーゼツは歩き始める。
「そうだ!ファールジュとの戦いはどうなった!?ここは何処だ?くそっ、どうなってるんだ!!」
自分は止まれない。先に進まなければ──
『何処に行くんだ?』
その時、この闇の向こうからトーゼツに話しかけてくる声があった。
トーゼツは警戒しながら、見えない向こう側へと声をかける。
「……誰だ?」
『俺はお前を知っている。お前も俺を知っているはずだ』
その声はゆらゆらとトーゼツへ近づいてくる。が、やはりその声の主は見えない。
その声をトーゼツは初めて聞いたモノであった。知らない相手。しかし、何処か懐かしくもあった。いいや、違う。ずっと聞いていたかのような──
『悲しいよ……苦しいよ……寂しいよ……俺は嘆かわしいよ!!!』
その闇は叫ぶ。その言葉には全て感情が乗っかっているようには感じなかった。まるで演技でもしているかのように。
『俺はお前が生まれてからずっと一緒だったんだぜ?姉貴よりも長い時間共にしたのにな』
「俺は…お前を知らない……誰なんだ?お、お前は────」
トーゼツは恐怖を感じ始める。得体の知らないナニカが、自分の事を知っているというこの状況に嫌なモノが心に侵食してくる。
そして、とうとう濁った闇の奥から、その顔が出てくる。
「な、なんで……どういう…………!?」
そこにはありえないモノがあった。
『分かったか?思い出したか?改めて理解したか?』
なんとそこには、トーゼツがいた。
もう一人の自分がいたのだ。
『俺はお前の中の理想の姿だ。お前は英雄になりたかったんだろ?人々を救うような、物語の勇者に成る事を夢見ていたんだろ?その強い想いによって俺は生まれ、何度もお前を支えた。助けた。救ってきた!!というのに、お前は俺を認識してくれなかった。そのうえ、上手く使えなかった。もうお前はここまでだ』
その時、トーゼツは浮遊感を覚え、次の瞬間には下へ下へと落ちていった。
「だ、ダメだ!俺はまだ……!」
必死に手を伸ばし、上へと登ろうとする。しかし、その手は決して届かない。
どんどん闇が濃くなり、何も見えなくなっていく。
『俺がお前の夢を描き上げてやる!』
ドクンッ!
心臓が跳ね上がる。
その音を聞いたファールジュは立ち去ろうとしていたその足を止める。
「そうこなくちゃね。ここで死んでしまうのでは、調和神アフラに認められるわけありませんものね」
そうは言いながらも、トーゼツは弱すぎる。固有技能を生かしきれていない。どうして調和神アフラに耳止められたのか、そこに納得がいっていなかった。




