内の覚醒 16
魔術師であるファールジュにとって、近距離戦へ持ち込まれてしまうのはとても危険であることは理解している。しかし、彼女はとても余裕の表情であった。
「聞いてはいたが……面白い固有技能ですね。魔力量も増えている。でも……!」
ガチガチガチ!と鍔迫り合いのように力が拮抗してぶつかっていた杖と剣だったが、どんどんトーゼツは押されていく。
「ッ、また……この感覚!!」
何だか、腕に力が入らない。それに魔力量もうまく出せない。
「これが私がサルワ様から授かった厄災の力よ!!」
そのまま完全に押し切られてしまい、トーゼツは大きく態勢を崩してしまう。そこに腹部へ向かって杖で容赦無く強く突き、間髪入れずに魔力弾も放つ。
「ァッ!!」
トーゼツは再び吹っ飛ばされ、ファールジュとの距離を取られてしまう。
「やっぱりおかしい……なんだ、この動きは。アナタの力を使えば、ゴリ押しのゾンビ戦法も使えるでしょうに」
ファールジュは強い引っ掛かりを覚える。彼の固有技能、『不屈の魂』を用いれば、諦めない限り何度死んでも、何度でも立ち上がれるはずだ。であれば、死ぬ攻撃を喰らっても、問答無用に真正面から襲い掛かれば良いはずだ。何せ代償なしに蘇られるのだから。
しかし、そうしてこない。というより、確実に死んでしまうような攻撃を文字通り必死に避けている。
「もしかして、自分の固有技能を認識していない……?」
まさか、そんな事、あり得るのだろうか。
いいや、あるのかもしれない。
死後、その精神の強さから何度でも復活出来るという、『意識を失い、死ぬ事が確定』してから発動する特異性のある固有技能だ。自覚出来ないのも仕方のないことなのかもしれない。しかも、その固有技能があるからこそ、あの調和神アフラの計画にある中心に選ばれたのだ。
とはいえ──
「本当にコイツに任せても大丈夫なのか?そもそも、あの御方は何をしている?」
一介の魔術師である自分は全てを理解しているわけではない。しかし、固有技能を発現させている者は人類を次の段階へと押し上げる可能性を抱えた存在だと聞いた。だが、その固有技能を自覚していないのは大問題なのではないか?
「これは予備プランへと移行するべきかもしれませんわね」
そのように判断するファールジュであった。
「はぁ…はぁ……!」
トーゼツは呼吸を荒くしながら、ゆっくり立ち上あがる。
(近距離戦に持っていくのにもかなり苦労してるっていうのに……すぐに距離を離されちまう)
魔術の中には近距離特化した術もあるのは知っているが、魔術師は基本、距離をとって安全圏内から攻撃していくのがセオリー。だからこそ、槍士や剣士といった近距離メインの戦士はとにかく距離を詰めるのが常套手段なのだ。
だが、上手くいかない。
トーゼツは思考を張り巡らせる。
どのようにファールジュを攻略するか。




