内の覚醒 10
天玉仙帝の右手には小さな器があった。その器も仙帝専用のモノなのだろう。素人でも見て分かるほど素材、加工にこだわって作られた器だった。その中に入っているものは最初は水かと思ったが、香って来る匂いはアルコール臭いモノであった。
「都市内のあちこちが大騒ぎだっていうのに、アンタは一人、安全な場所で晩酌か」
サルワはニヤニヤと馬鹿にするように嗤いながら天玉仙帝へと話しかける。
「ここが安全な場所だとは思っておらんわ。実際、主犯格であるキサマが警備の兵士全員を倒してここに来たわけだしな。今やコーゲンミョウラクに避難出来る場所など無かろう」
彼もまた、ふふふと軽く笑いながら、ぐいっと器に入った酒を一気に飲み干す。そして自分専用に作らせた、まさに一個数百万の値打ちはするであろうその器をいとも簡単に投げ捨てる。
天玉仙帝意識を切り替え、体内から魔力を放出し、身に纏い始める。
「キサマの目的は分かっている。残りの厄災を取り込みにきたのだろう?確かに仙国内に厄災は存在している上、こちらで管理している。お前は何処まで理解しているのだ?」
「やっぱり厄災目的ってとこまでバレているのか。んじゃあ、色々と誤魔化しても意味はなさそうだな。あんたの質問に答えるとすれば……全部」
同じく厄災であるサルワにとって、他の厄災は兄弟も同然。その兄弟が何処にいるのか、というのはなんとなく分かっているつもりだ。それは明確ではない。なんとなく、という勘に近い感覚だ。
それでも、これは絶対であり、頼りになる感覚だ。
その勘からこの仙国内の何処に厄災がいるのか、ある程度、予想がついている。
天玉仙帝は少し驚き、困惑する表情を見せたが、すぐに余裕の態度へと戻る。
「何処から情報を仕入れてきたか……まぁ、良い。それよりも、キサマは我を倒すことが出来ると思ってここに来たのだろう?早く始めるとしよう」
天玉仙帝は拳を構え、サルワを睨む。
「そうだな、私も無駄な時間をかけるのは嫌なのでな。お前を殺した後もやることがあるし」
そうして彼女も膨大な量の魔力を纏い、そして片手に貴族や王と言った権力者が持っていそうなセプターを具現化させる。
お互い、戦闘態勢を取っている。が、すぐには動かない。睨みあい、警戒し、状況を見ている。
緊張感が場を支配する。
数十分にも感じるこの数秒間……。
互いは同時に動き出す。
ダンッ!と強く地面を蹴り上げ、距離を詰める。そしてお互い、攻撃の入る射程距離内へと入ると攻撃を開始する。
サルワは無詠唱、無魔法陣で絶大級の魔術を展開。セプターを振り上げ、天玉仙帝に向けて強く振り下ろす。それはどれほどの威力、速度だったのだろうか。ソニックウェーブを生み出し、周囲の空気を振動させ、空間に凄まじい衝撃が襲い掛かる。
それに対し、天玉仙帝は手のひらを広げ、掌打の構えで迎え撃つ。




