内の覚醒 9
場面は変わり、そこは都市の中心にある天玉仙帝の住まう霊霄殿。本来であれば、多くの兵士がいるこの場所だが、この黒いローブの集団が攻めてきたことでそのほとんどが魔物や厄災との戦いであったり、市民の避難と言った仕事へと動員しており、残っている者は少なかった。
それでもなお警備は厳重であり、どんな相手であっても攻め落とすのは困難。
だというのに──
「楽に攻め落とせたな」
そのように呟きながら、楽しそうに霊霄殿の中を突き進んでいく。
彼女の周囲には兵士が倒れており、床には多数の者の混ざった血が広がっていく。彼らも天玉仙帝によって加護を授けられているようだ。転がっている兵士全員が生きていた。しかし、同時に彼らにとって死ぬことも出来ず、死んで当然の苦痛に耐えなければならないという地獄でもあった。
そんな苦しみ兵士の中──
「ッ!」
一人の兵士が立ち上がり、槍を持ってサルワに突進していく。
「中級槍術〈貫撃〉!!」
彼は詠唱し、術を発動させる。
どんな盾でも防御できない、鋭い突きであった。のだが──
「この程度で私を倒せると思っているのか?」
サルワは退屈そうに、片手で受け止め切っていた。
「ッ、くそがッ…………!」
「死ぬことも出来ない木偶の坊のうえに、口が悪いとは。救い難いな」
サルワは支配の力で重力場を操り、兵士を操ろうとする。のだが、うまく力が作用しない。
「やはり、仙帝の力か?まぁ、この状況でも霊霄殿を守らせるために残した兵士だ。それなりの実力を持っているのか、それとも気に入られているのか。どっちかは知らんが、厄災の力を受けつけないよう何かしらの細工をしているようだな」
もっと色々と試したいことはあるが、今は目的がある。
支配の力で重力場を操作し、兵士を吹っ飛ばす。
「さて、行くか」
彼女は再び歩き出す。
今頃、都市のあちこちでは阿鼻叫喚の地獄と化しているだろう。だというのに、霊霄殿の中は静寂が広がっていた。まさに眠りに着くのには心地が良いほどに。その空間をコツコツと足音立てながら進み、辿り着いたのは一つの部屋。出入り口の扉は大きく、豪華なな装飾が施されている。宝石なども埋め込まれており、その部屋がとても重要な場所であることが分かる。
「さて、ここが仙帝のいる玉座の間だな。ったく、権力を持った奴は良いところ住んでるんだなぁ」
そのように呟きながら彼女は扉を開ける。
足音同様に、この静かな空間にギギギ、と扉の開く音が響く。
部屋に入り、彼女の目に最初に映り込んだものは──
「キサマが今回の騒動の主犯格だな」
そこは百人単位で中に人が入れそうな、大きな部屋だった。そこに支配者が座るに相応しい座で堂々と待ち構えていたのは天玉仙帝であった。




