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内の覚醒 5

 トーゼツの意識が遠のく。


 突き刺さった氷を抜き、少女との距離を詰めようと考えるのだが──


 「ッ──」


 どんどん体が冷たくなっていく。それは少女の持つ冷気の力だけではない。体内の血液がなくなることで体温を維持出来なくなっているのだ。


 胴体に開いた穴に、口や鼻、あらゆる場所から血が出てくる。


 体に力が入らない。それでも根性で耐えようとするのだが、やはり気合だけでは無理だった。トーゼツはそのままバタリ、と倒れ込んでしまう。


 「ッ、あッ、げホッ!」


 呼吸器官に血が溜まっていき、呼吸が難しくなる。


 脚に力が入らない。穴の開いた胴体よりも下が動かない。無理に動かそうとするたびに想像を絶するほどの痛みが広がっていく。


 痛い。


 苦しい。


 しかし、ここで止まるわけにはいかない。


 「ッ、ああぁぁぁぁぁ!!!」


 トーゼツはなんとか腕だけで体を起こそうとする。その時──


 「無駄ナ足掻きだ」


 顔を上げるトーゼツの喉に鋭く、透き通る美しい刃があった。


 いつのまにか少女が目の前に来ていたのだ。


 周囲に緊張感が奔る。


 思わずトーゼツはごくり、とつばを飲み込む。が、その時に少し喉が動いたことで皮膚が軽く刃に刺さり、ツーと血が垂れて出る。


 「………」


 トーゼツは落ちている杖へと意識を送る。


 首を掻き斬られる前に……いいや、斬られても反撃する!必ずここで殺す!!


 「終わりだ」


 少女は容赦無く、剣を振るう。


 その瞬間、トーゼツは魔力を流し込み、脳をフル回転させる。発動させる術は絶大級。詠唱と魔法陣を展開させなければ、発動時の負担で脳がパンクし、死んでしまうことだろう。


 しかし、どうせ何をしなくても首を斬られて死ぬのだ。問題はない。


 少女の目の前でトーゼツの魔力が炎へと変化し、太陽に負けないレベルの熱が襲いかかる。


 だが、やはり間に合わない。


 さきにトーゼツの首が掻き斬られ、意識を完全に失ってしまう。炎も、熱も全てが収束していき、トーゼツの絶大級の術は不発動で終わってしまう。


 「……」


 少女は動かなくなった肉をただ見下ろす。


 トーゼツはまだ完全に死んでいるという状態ではなかった。心臓はまだ軽く動いている。血液はゆっくりであるが循環している。脳もまだ少し何かしらを思考しているようだ。だが、喉が動いていない。呼吸をしていない。一分もしないうちに体内の酸素を使い終わり、あとは数時間かけて全細胞が死んでいくだけだ。


 もう興味をなくしたようで少女は歩き始める。


 サルワに与えられた命令を果たすために。


 肉の心臓の鼓動も止まった。ここまで来たら治癒魔術でも救えない。これで完全に死んだと言えよう。


 トーゼツに対しては相手にならないと考え、控えさせていた化け物たちを引き連れ、都市内部を進行しようとするその時──


 ドクンッ。


 ドクンッ、ドクンッ、ドクン!ドクン!ドクン!


 止まった鼓動は動き始める。


 肉が、再び生命として返り咲こうとしている。

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