内の覚醒 2
トーゼツはひたすら斬っていく。
「はぁ…はぁ……!」
冒険者として魔物との戦闘になれているトーゼツでも、さすがに多対一はキツイようだ。脚が止まり、腕の動きが鈍くなる。それでも自分の身を守るためにも、無い体力を根気で生み出し、敵を殺す。
気づけば、魔物は何処にもいなかった。肉塊だけが、そこで広がっていた。トーゼツの体も化け物の血飛沫で真っ赤に染まっていた。
トーゼツは呼吸を整えるために、疲労した筋肉を休ませるために、少しだけ座り込む。
全てが凍る冷たい世界の中だというのに、自分の火照った体が煩わしく感じる。それがまるで自分が孤独の存在かのようにも思う。
そんな邪念を振り払い、トーゼツは立ち上がる。
「さて……行くか」
トーゼツは剣を強く振り、刃に付着した血を払うと歩き始める。
やはり、まだまだ厄災の影響は都市の広範囲に行き渡っているようだ。進むとその先には多くの魔物化した人に獣が多く居た。
それら人外と化したモノたちを見るたびに、トーゼツの怒りが心の底から湧き上がる。
彼ら、彼女らは都市の中で生きてきた、まさに平和な日常を歩もうとしてきた者たちだ。もちろん、中には犯罪者がいるかもしれない。薬物中毒者であったり、泥棒であったり、全てが善人だとは断定出来ない。それでも、更生の余地があったかもしれない。自分で望んだ道ではなかったのかもしれない。
だが、もうその罪を精算することも出来ず、幸せの道を一方的に失った……。
そのことを考えれば──
「クソがッ、馬鹿にしやがって……!」
トーゼツは再び魔力を刃に灯らせる。
「そん、なに……カンジョウ的で、コワイですね」
そこにトーゼツへ話しかけてくる声があった。
女性の声。
群れる化け物の中を掻き分けて来るのは、やはり声から予測した通り、一人の女性。白く、まさにこの景色に似合った雪のような髪をした一人の少女。
何も知らなければ、ただ可愛らしい少女に見えたかもしれない。
しかし、トーゼツはひしひしと感覚で分かっていた。肌を突き刺すような嫌な気配、まさに心を鷲掴みにされてしまいそうな恐怖。少しでも弱いところを見せれば精神を汚染してしまいそうな、得体の知れないナニカ。
まさに何度も味わったことのある厄災の力。
トーゼツは強く警戒を始める。
「お前は……見たことないが、どうせサルワの仲間だろう?」
「ソウ……ですね。サルワ様から命令を受ケて、都市のハイカイを、徘……カイを?」
少女はまるで壊れた機械のように、何度も同じ言葉を吐き、体をぎこちなく動かす。
再びトーゼツは恐怖を覚える。
これまで会ってきた、厄災の力を取り込んだローブの集団とは違うとトーゼツは察した。アイツらは狂っていたが、知性を失ったわけではない。人の身でありながら、厄災の力を我が物にしていた。だが、この少女はまるで、誰かに乗っ取られているような……人の形をしているのに、人ではないような……そんなナニカをトーゼツは察したのだ。




