内の覚醒
トーゼツは目の前の状況に絶望していた。
そこはあらゆるモノが凍っていた。大地に人、犬や猫と言った生き物から建物まで。生命から物体まで全てが止まってそこにいた。そんな氷の世界の中、蠢く影があった。それは人の形をした魔獣。タコのように、軟体生物的な動きをしている化け物。
覚えている、忘れることは決してない。
神都が厄災にメイガス・ユニオンから襲撃を受けたあの日、街中に溢れていた化け物と一緒だ。
であれば──
「元はコイツらも人間って事か」
もう、彼らは人間に戻る事は出来ないのだろう。いいや、もしかしたら元に戻せる方法も探せばあるのかもしれない。しかし、見つけるのにいつまでかかる?
何日、何週間、何年……。
そんな時間は待てない。
探している時間の最中でも、厄災の影響で多くの人間が魔獣化し、人を襲い続けている。ここで殺すことでしかこの最悪な状況を収拾させるしかない。
だが、それよりもトーゼツが気になっていることがあった。
「化け物が溢れているということは……アイツらが来てるってことか!」
サルワにイルゼと言った、まさにトーゼツの殺さなければならない奴らが……!!
トーゼツは指輪の力で空間に穴を開け、そこから剣と杖を取り出すと勢いよく走り出す。
トーゼツの姿を捉えた化け物たちは、彼を殺そうと襲いかかる。無数に引き裂かれた腕が、まるで鞭のように向かってくる。が、それを難なくトーゼツは斬り捨てていく。
「邪魔だァ、退け!!」
どんどん化け物を斬り殺していく。元は人間だったそれらを、容赦無く。
──いいや、分かっているつもりだ。
自分はどんな姿であっても、自分を殺しにかかってきているとしても……目の前にいるのは人間だ。であれば自分は人殺しだということに変わり無い。
それは自分が最も忌避していたこと。しかし、その罪から目を背けることはしない。トーゼツの体が重くなる。それはもう体力が無くなってきているのか、それとも罪悪感がのしかかってきているからなのか。
剣をひたすら振るっていく。その最中、地面を駆けていく、いくつかの小さい影を目視する。それはシルエットから犬や猫といった類のモノであるということが分かる。しかし、その姿がはっきりとは確認できない。全身が真っ黒な毛で覆われており、まさに地獄から這い上がってきた悪魔のようだ。
その魔獣と化した犬、猫たちはトーゼツへと突進すると口を大きく開け、鋭い歯をギラリ、とまるで見せつけるように剥き出して噛みつこうとする。
これまで相手していたのは、魔物化しているとはいえ、やはり人間。ある程度、動きが予想できた。しかし、この魔獣は人とは違う動きでトーゼツを翻弄する。
しかし、トーゼツはその動きに惑うことなく冷静に、変わらず剣で容赦なく斬り殺す。
真っ二つにされ、魔獣は内臓を地面に散らしながら死んでいく。




