襲撃 7
同時刻──
「はははははははッ!楽しいなァ!!」
イルゼも都市部内で大きく暴れていた。
彼女は両手に鉄が埋め込まれている、ゴツゴツのナックルの付いたグローブで仙国兵士に、冒険者たちを真正面から容赦なく殴り倒していく。
「たった一人だ!早く奴を止めろ!!」
一人の戦士が叫ぶ。それでイルゼの周囲を囲うように立つ。全員が武器に防具を構え、イルゼを強く警戒し、睨んでいる。
戦闘において、人数差というのは勝敗を決定的にさせてしまうほどの要因だ。本来であれば絶望的状況。なのにも関わらず、イルゼの顔は相変わらず嗤っている。
「くくくッ!この程度で私を止められると思っているのかな?」
イルゼは体内の魔力を体外へと一気に放出。それらを見に纏い、そこに立つ。
「お前らがどれほど束になった所で私を止められや出来るわけねぇだろ」
一瞬だった。
イルゼはまさに音速に近いスピードで大地を駆け、空間を移動し、戦士たちを殴り殺していく。頭に首、心臓と言った人間の急所を的確に狙って。しかし、狙う必要すらなかった。なぜなら、殴るだけで戦士達の体は耐えることが出来ず、肉となってぐちゃぐちゃに崩壊していくのだから。
それでもやはり、戦士達は死んでいなかった。肉塊になっても、細胞が蠢いている。気味が悪いほどに。だが、もう倒れてしまった存在にイルゼは興味がないようだ。
「はははははッ!弱い、弱すぎる!雑魚の殲滅も楽しいなぁ!」
彼女はひたすらに嗤う。
肉塊だらけの、まさに地獄絵図のような光景。その中心で、この地獄を作った彼女はひたすら嗤う。両手は真っ赤に染まり、まるで悪魔のようだ。
「だが、ずっと雑魚の殲滅するのも飽きるな。強い奴と戦って──」
その瞬間だった。
背後に凄まじい殺意があった。
「ッ!!」
イルゼは突如のことに驚き、脳の思考が止まる。だからこそ、これは本能なのだろう。神経だけで体を動かし、背後の存在に対し、拳を構える。
すると、腕に強い衝撃が奔り、後方へと吹っ飛ばされそうになる。が、脚や腰に踏ん張りを効かせ、なんとか耐えようとする。しかし、正面から受けたその攻撃全ての衝撃、威力の無効化は出来ず、ズザザザッ!と靴底と地面を擦らせながら数メートル下がっていく。
「良い攻撃だねぇ」
痺れた両腕を休ませるように、脱力させてぶらぶらとさせるイルゼ。
彼女の前に現れたのは、一人の男。
「キサマがこの騒動の主犯か。見た感じ、エルフだな」
広大な人口、土地を持つ仙国。その国内にもエルフが住む地域、場所はもちろんある。仙国は昔から他種族文化。種族による差別や偏見はゼロではないが……まぁ、他国と比較すれば少ないだろう。
しかし現在、世間的に暴れるエルフとなれば──
「メイガス・ユニオンか?」
いいや、違うな。
魔術師の象徴である杖を持っていない。もちろん、杖を持たない魔術師など、珍しくはない。しかし、優秀な魔術師であればあるほど、杖の重要さを知っているはず。
「……まぁ、お前が何者であるかなんて、どうでも良いか。このワンウーが、天玉仙帝様の求める安寧を破壊する不届きものをここで殺すだけだ!!」
男は怒りと共に叫ぶ、それと同時に周囲に水の九代が出現。それら全てがイルゼに向かって放出される。




