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襲撃 6

 そこはまさにマイナスの世界。


 水分は五秒も持たずに氷へと変化し、生命など生きられないほどの極寒世界。大地は凍り、人以外にも犬や猫と言った動物でさえも全てが生きたまま凍り漬けにされている。


 その中を佇む一人の影。


 ふぅ、と呼吸をするたびに白い息を吐くそれは、支配の厄災ことサルワであった。


 「くくくっ、これほどの規模を凍らせられるとはな!良いぞ、寒冷の力!!」


 楽しそうに嗤うサルワだったが、やはり元は自分の力ではないからか。自身の手先や足先が凍っており、自身に肉体すらも凍ってしまっていた。


 「しかし、力の制御が難しいな。しばらくの私の課題だな。ふはははっ!まぁ、当たり前だよな。強くなるためには代償が必要だ。時間と体力を犠牲に、この力を私のモノにしてくれる!だが、今はその時ではない。目的のために動かなければな」


 サルワは周囲を見渡し、凍り漬けにした者たちを確認していく。


 「やはり全員、生きているな。天玉仙帝も全く面白い事をする。土地の龍脈に自身の仙人の力を流し込むことで生命に不死の力を付与するとはな。だが、今回はそれが(あだ)となったな」


 サルワは魔力を放出すると共に自身の内にあった狂気もまた振り撒く。


 すると、凍り漬けの人々に狂気が入り込み、精神を汚染していく。そして──


 バキバキッ!と氷が割れたかと思えば、人々の体が化け物へと変容していく。


 青黒く蠢いている。そして体の所々がまるで風船のようにぶくぶくに膨れ上がっては、すぐに萎んでいく。腕は数本に引き裂かれたように分かれている。そして骨がなくなったのか、まるでタコのような軟体動物の動きで地面を這っている。 


  「さすがに死体に対して狂気による精神汚染は使えない。だが、今回はどんな状態であっても死なない!あははっ!この狂気の力で人間を魔物化して撹乱していく。くくくっ、仙国の兵士に冒険者ではこの混乱を止めることはもう出来ない!」


 さらに本来であれば、この事態も冒険者ギルド連合本部へとすぐさま伝達され、本部所属の冒険者から、アナトなどもすぐにこちらに向かってきていただろう。しかし、今ギルドは戦争中。こちらに気づくことはない。


 「さて、もう一つ、手駒を増やしておきたいな」


 そう言うと魔獣と化した人間もとい、化け物たちを吟味するように見ていく。そして、「コイツならイケるな」と一人の化け物に触れ、魔力に、厄災の力を流し込む。すると、その化け物はなんと人間の姿へと戻っていく。肌の色は戻り、裂き別れた腕は治っていく。そうしてそこに現れたのは長く、白い髪を持った一人の少女であった。


 「お前には寒冷の力の一部を渡した。コイツらを引き連れて暴れてこい」


 「……わかりました」


 少女はサルワの言う通り、化け物達を引き連れて侵攻していく。


 「よし、ファールジュに、イルゼも動いているんだ。撹乱には充分かな。それじゃ、私の目的地へと急ぐとするか……」


 サルワは歩き始める、それは天玉仙帝のいる霊霄殿(れいしょうでん)に繋がる道であった。

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