襲撃 2
セレシアでは死人が出て地形も変わるような戦争をしている最中、仙国では真反対に平和的で、ほのぼのとしている日常の中、ギルドでただラジオだけを聞いて退屈そうにしているトーゼツと論文を書いているテルノドであった。
が、そんな仙国の首都、コーゲンミョウラクに近づく不穏な三つの影があった。
「さて、無事にここまでは来たが俺たちの目的は分かっているよな?」
そのように問うのは支配の厄災こと、サルワであった。
「とにかく暴れれば良いんだろう!?ははははっ、楽しみだなぁ……!」
そのようにサルワの言葉に答えるのはイルゼだ。彼女は両手をボキボキと鳴らしながら、表情はとても凶悪で嬉しそうなモノだった。
「……変わらず戦闘狂ですわね」
サルワの態度に呆れたような雰囲気を出すのはファールジュだ。
「まぁ、私たちのやるべき事なのはサルワへの注意を逸らすことだから、間違ってはいないんですが。しかし……私が気になるのはサルワ、あなたの計画のことです。今更ですけど、本当に可能なのかしら?」
そのファールジュの心配の声に対し、サルワは嗤う。
「はははっ!私の力を過小評価しすぎてるんじゃないか?今の私は多くの厄災を取り込み、父である悪神へと近づきつつある!神代の頃、あらゆる神々が恐れ、勝てなかった存在だ!!私が負ける道理はない!」
そう言って「はははははッ!」と高らかに嗤い続ける。
確かに、彼女はここ数ヶ月で異常な成長をしている。元々持っていた支配の権能はもちろん、保有する魔力量や術に関する知識、技術なども新たに獲得し、強くなっている。それだけではない。兄弟である他の厄災を吸収することで新たな権能を手に入れてきた彼女は、今や最強の冒険者であるアナトに届いたと言っても良いだろう。
「なら良いんだけど……」
そう言って三人は歩き続け、都市部へと向かっていく。
その時であった。
「そこの三人、止まれ」
見回りをしていた一人の兵士が話しかける。
「君たち、見る感じコーゲンミョウラクの外から来たんだろ?最近、メイガス・ユニオンによる事件があってから検問が厳しくなってるんだ。少し質問とか、荷物を確認しても良いかな?」
三人は顔を見合わせる。何も話さない。喋らない。しかし、その眼で互いに何を思っているのかを感じ取り、行動を始める。
「あの、聞いて──」
再び兵士が口を開こうとしたその刹那、顔に強い衝撃が奔る。それと同時に彼の身体は後方数十メートルまで吹き飛び、地面に倒れこむ。
「はっはァ!!これで良いんだろう!」
イルゼはそう言って嗤う。どうやら、彼女が兵士を殴って吹き飛ばしたようだ。拳には魔力が纏われており、殺すつもりでやったようだ。
しかし、兵士は死んでおらず、懐に入れていた連絡系の術式が施された木の板を取り出す。
「て、敵襲だ!すぐに応援を──」
その最後の言葉を言い終える前に、イルゼは地面を蹴り上げ、吹っ飛ばした兵士との距離を詰めると、問答無用で追撃を行う。今度こそ、殺すために。
「おっらァ!!」
再び殴る。しかし、威力は先ほどと比べ物にならなかった。
何せ、一発で頭がねじ切られ、胴体から離れていったのだから。
「ははははッ、弱いねぇ。もっと強い奴を殴りに行くか!!」
そうしてイルゼは走り出す。
「全く、少しは落ち着いて、状況を考えて欲しいモノだな」
そうしてサルワも物凄いスピードで大地をかけ始める。
「……私も行くか」
ファールジュもまた、遅れて行動し始めるのであった。




