戦争開始 16
詠唱を終え、準備が終わったミトラはその構えた剣を思いっきり振り下ろす。すると、ぐるぐると螺旋を巻いていた炎が一気に周囲へと散っていく。それはまさに光の速度と思えるような速さで。
だが、驚くべきなのは速度だけではない。その威力もだ。
ミトラへと向かってきていた全ての魔術攻撃が掻き消され、そのままメイガス・ユニオンの魔術師すらも吹き飛ばしていく。後方で儀式魔術を発動させようとしていた部隊すらまとめて。
後ろに居たベスに冒険者たちもそのおかげでどんどん前へと進み、第三の塹壕へ攻略しに進む。
「良し!これで儀式魔術の発動阻止に──」
上手く剣術を発動させ、目の前にいた敵を殲滅することに成功した彼女の顔はまさに笑顔であった。が、やはり身体にかかった負担は思いもよらないモノであったのだろう。ふらり、と倒れそうになり、また鼻からたらり、と温かく、赤いモノが滴り落ちる。
「バカ野郎」
きつそうな表情だというのに、ベスは問答無用で頭を軽く小突く。
「痛って!!」
「いつも言っているだろうが!!剣聖だからと言って絶大級の術を使いまくるんじゃないってな!」
ミトラの脳と肉体は構造的に強い負担をかけられない。もちろん、絶大級の術を使ってはいけないというわけではない。しかし、連続や同時発動となると体に危険を犯すことになる。また、魔力量も戦士の中では上澄ではある。が、四大聖という事を踏まえて考えれば少ない方である。
そのため、ベスは常にミトラに言っていた。絶大級の術を使いこなせるようになるのではなく、上級剣術を組み合わせて戦え。火力勝負ではなく、技術勝負に持ち込む戦い方が適している、と。それでミトラは他の剣士、剣聖に比べて覚えている剣術が異常に多い。また、一部の魔術も身につけており、それらを上手く活用すればアナトにだって良い勝負をする事が出来るだろう。
しかし、ミトラは同時にこれで良いのか、と考えていた。
自分は剣聖だ。世の中、剣士となり、才能を伸ばして剣聖へ到達しようとしても、到達できない領域。そこに彼女は立っている。というのに、他の四大聖に比べれば火力が圧倒的に劣っている。
ベスの言っている事は正しい。先生と呼ぶのに相応な正しい分析に適切な指導……。しかし、ミトラ自身が火力で戦えるようになりたいという気持ちから実戦では覚えた絶大級の術を無茶であっても使うことが癖になってしまっているのだ。
だが──
「確かに、先生の教えを無視してるけど、殴らなくたって良いじゃないですか!!」
「んだと!?」
もう一度、ベスはミトラの頭を叩く。
「お前がどんだけ馬鹿やってんのか、分かってんのか?ここからまだ戦いは続くんだぞ!試しに立ってみろよ!!」
そう言われてミトラは鼻血を腕で雑に拭い、脚に力を入れ、立ちあがろうとするが立ちくらみを起こし、次の瞬間にはふらり、と再び態勢を崩してしまう。
「な?お前が馬鹿な無茶したせいでもう戦闘継続出来なくなっちまった。今回は周囲に味方もいて大丈夫だが、単独任務の場合、戦えなくなったお前は死ぬしかないんだぞ!ったく、しばらく後方で体を休めて、頭を冷やしておけ」
そう言ってベスはミトラを置いて前へと進んでいく。




