戦争開始 10
さて、またまた場所は変わり、そこはセレシアとスヴァルトとの国境沿い。
アナトが下見へ来た時と違い、今日は晴天であった。日は明るく、地上を暖かく照らしている。しかし、風は相変わらず冷たく、地面は真っ白な雪によって覆われていた。
それはまさに圧巻で、まさに自然の雄大さが分かる景色であった。この景色を初めて見る者がいれば息を飲んで感動していただろう。そこに殺し合うための兵器が並んでいなければ──
セレシア方面で待機している魔術師は塹壕を掘っており、また魔術によるトラップがあちこちに仕掛けられている。そして、巨大なカノン砲や榴弾砲といったモノも設置されているが、近くには発射するための弾丸はなかった。きっと魔力を流し込み、発射するいわば魔具兵器なのだろう。
一方、スヴァルト方面では治療用から剣や銃、弾薬と言った物資を運び、司令用のテントを設営。また多くの冒険者たちが武装を整え、戦争開始まで待機をしていた。人数では勝っているが、初めて見る兵器を見て多くの者たちが恐怖や不安を抱えており、スクワットや軽い準備体操を行い、体を動かすことで緊張をほぐそうとする者たちもいた。
国同士の戦争であれば、しっかり兵を隊列させるべきなのだろう。しかし、冒険者は決して兵士ではなく、また戦争の経験などない。それに戦い方もそれぞれ異なっている。パーティを組んだ戦い方をする者が得意な戦士もいれば、単独でいるのが楽と考える者もいる。ゆえに綺麗な隊列を組ませる事なく、自由にその場で待機していた。
「下見で来た時は視界が悪く、確認できなかったが、兵器も持ち込んでいたんだな」
アナトは待機する冒険者の一番前……まさに文字通りの最前線で立っていた。恐怖の飲まれることなく、冷静に、そしていつも通りの姿で敵陣の様子を眺めている。
「だが、見る感じ兵器の数も十ほどだ。メイガス・ユニオンの規模を考えると異様に少ないな」
彼女の言葉に、同様に前線で待機していたベスはそのように言う。
「それでも、油断はできない。一応、スヴァルトから過去、セレシアが用いた兵器や戦法、戦術の情報提供して貰ったが、あんなのは確認されていない」
「ということは新兵器ってわけか。そもそも、セレシアとスヴァルトの戦争だって百年以上昔なんだろ?こりゃあ、何が飛び出してくるか分からんな」
というか、きっとこれは新兵器の実験的な意味合いもあると考えれる。
セレシアはエルフ単一国家だ。人間と寿命の違う彼らはまさに、時間感覚も人と異なっている。百年以上昔というのもエルフからすればつい最近なのかもしれない。それでも、百年以上は戦争していなかったのだ。それまで研究、開発してきた兵器の実践投入が出来るまさに絶好の機会。
ゆえに、実践投入をしてデータを取りたいだけかもしれない。
「まぁ、……新兵器でも…どんな殺戮兵器であっても私の敵じゃないさ」
「へぇ、言い切るねぇ。んじゃあ、先頭を頼んだよ」
そう言って後方へ行こうとするベスをアナトは首根っこを掴み、捕まえる。
「いやいや、お前も一緒に出るんだよ!」
「なんでだよ!!俺は殿役だ!」
「もう逃げる気まんまんかよ!!」
あと五分後には殺し合うとは思えない雰囲気で二人は軽い取っ組み合いを行っていた。それを見ていた周囲の冒険者は緊張感無ぇ〜、一体何をやっているんだこのバカ二人は……と思うのであった。




