戦争開始 9
数日後、場面は大きく戻りそこは仙国の首都、コーゲンミョウラク。そこからさらに首都内にある冒険者ギルド内では多くの人がごった返していた。それは戦争に招集されなかったり、棄権した冒険者たちに、仙国の兵士から一般市民とまさに多種多様な人々であった。
『ギルド本部の指定した日時まで三十分を過ぎました。残りの時間でセレシアからの連絡がなければ冒険者ギルドによる侵攻が開始いたします!』
その声はラジオから流れているモノで、これから始まる前代未聞のメイガス・ユニオン対冒険者ギルド連合本部との戦争という歴史的瞬間を見逃さないぞという意識で多くの者たちがスピーカーに耳を傾けている。
また、この戦争は一体どうなるのか。どちらの勝利で終わるのか。また戦争の影響によって世界はどうなっていくのかと意見を擦り合わせる者たちも少なくなかった。
「これはメイガス・ユニオンが勝った場合、冒険者ギルドに加盟している各国はセレシアのメイガス・ユニオンに同盟を求める可能性もあるよな」
「だとしたら、冒険者ギルドの方はどうなるんだ?」
「どうなるって……解体、まではないだろうな。どんな風になっても冒険者ギルド連合が消滅するイメージは沸かないわ。あの最強戦士のアナトだっているんだぞ?」
「だよな……でも──」
あちらこちらで多くの意見が行き交う。
そんな中、一人だけ機嫌の悪そうな顔でラジオをひたすら聴いている少年がいた。
「ったく、なんで俺だけ居残りなんだよ……」
トーゼツ・サンキライであった。
「まぁまぁ、俺も置いて行かれた者同士、仲良く待っていようよ」
そう言って酒の入ったグラスを持ってやってきたのはテルノドであった。
「アンタは俺が一人で暴走しないように見張り兼お守り役だろう?」
これまでトーゼツは術聖アナーヒターを連れ出したり(彼女自身が失踪する事を望んでいたわけでもあるのだが)、ミトラの刃の厄災討伐に乱入したりと問題を起こしてきた。運が良い事に結果的に良い方向へ転がったり、事なきを得てきたが本来であればギルド連合規定違反だ。
もしも今回の戦争にトーゼツが我慢できず乱入する事があれば──
ということでテルノドが居るわけなのだが。
「そもそもアンタは冒険者ギルドじゃなくて、魔術学連合の術聖だろう?しかも、戦士じゃなくて、研究メインの魔術師だ。それに聞いてるぜ。自分から戦争参加に棄権したらしいじゃないか?」
「魔術研究をしている時点で戦いが得意じゃないことぐらい察して欲しいモノだね」
そう言ってテルノドはグラスを傾け、口の中へと注いでいく。
確かに彼の言う通りだ。古今東西、前線で戦いに赴くのは心の強い者たちだ。現代においては徴兵制度を敷いている国もあるため、これが必ずというわけではない。しかし、今回の冒険者ギルドによる戦争においては言えることだろう。
故に、テルノドが戦いに行かないというのもなんとなく理解できる。しかし、力を持っていながら戦わないのは怠惰だ。この酒を呑んでいる姿を見ると、ただサボりたい理由を見つけているだけの、怠惰な人間なのではないか?と思うトーゼツであった。




