戦争開始 8
「おっと、話しているとあっという間だな。着いたぞ、ここが出口だ」
そうしてレギンが止まり、アナトは彼の眺める先を確認する。
そこには薄明るい地上の光があった。アナトは懐中時計を取り出し、時間を確認する。今は昼前の十一時。かなり明るい時間帯のはずだが、それにしては外の光は暗すぎる。ということは現在、外の天候は悪いのだろう。
そして、外から吹いてくる風は肌に突き刺さるように痛く、冷たい。まぁ、ここは山岳氷河だ。寒いのは当たり前の話だ。
しかし、天気が悪く、寒いとなると外はきっと吹雪である可能性が高い。
「レギン、もう少し明るくなるけど大丈夫か?」
「ああ、問題ない」
そうしてアナトは照明のために生み出した炎の火力を上げ、熱を強くする。
ドワーフは前にも述べた通り、地中で生活するドワーフの眼は暗闇でも周囲を見渡せるほどには闇に強い。しかし、その分少しの光でも眩しく感じてしまう。ゆえに地上で生活するドワーフはサングラスなどをかけて目を保護している。
レギンもまた強めた炎が眩しく感じたのか、懐からサングラスを取り出してかける。
そうして二人は外へ出る準備を終えて、外の光が漏れる出口へと歩き出し、坑道から出る。
その瞬間、アナトの顔に何かが降りかかる。それは冷たく、軽いモノであった。きっと雪だろう。やはり、予想通り吹雪が舞っているようだ。周囲を観察しようとするが、アナトの視界は真っ白であった。ドワーフではなくても、暗かった地中から急に明るい地上へと出れば誰で眩しく感じるだろう。光に慣れないその眼を細めて、周りを確認する。
地面は雪によって白く染まっており、一面が銀世界であった。また、空には鈍く、黒い雲が覆っており、そこから絶えず雪が降り注ぐ。
徐々に光に目が慣れてきたのだが、それでもなお雪によって視界は悪く、よく見えない。悪あがきのように炎の光をさらに強め、遠くを見ようとする。
そして、アナトはその目ではっきりと見た。
今、自分たちの立つ山岳の向こう──セレシアとの国境方面に強く、明るい光がいくつもあることに。きっとそれはメイガス・ユニオンの兵士たちの光だろう。アナトのようにこの寒さを凌ぐと同時に視界の悪い中、活動するために魔術で炎を生み出しているのだ。
ゆらゆらと動くその光は、この銀世界の中ではとても神秘的であった。しかし、アナトたち冒険者からすれば数日後には殺し合う魔術師たちだということもあり、同時にその光が不気味にも見えてくる。
「この坑道はここに出てくるのか。悪路ではあったけど、場所的にはパーフェクトだ。予定通り、一週間後はこの道を使って冒険者たちを動員させよう」
そうして下見の終えたアナトは再び坑道内へと戻り、来た道を引き返し始める。
「しかしあれがメイガス・ユニオン共か。セレシア兵とは違い、全員が魔術師の集団だと聞いているが……やはり、大した数ではないな」
「レギン殿、それが違うな。今回、あえて動員している魔術師の数を最低限にしているんだ。それがあちら側の作戦だ。しかし……事前に斥候の報告を聞いていたが、予想以上に少ないな」
こうなると、何かしらの見落としがあるのではないか?このままいけば、負けてしまうのではないか?と不安になってしまうアナトであった。が、出来る限り情報収集は怠らずに行ったのだ。この不安もきっと戦争が始まればなくなるだろうと思うのであった。




