戦争開始 4
アナト以外の皆も同様の予想をしているようだ。
やはり、そこは戦いに身を置く者たち。もちろん、いつもは個人で戦い続けているため、戦争規模の団体戦闘は経験した事はない。それでも、戦いのセオリーに、そこから至る思考は同じようだ。
だが、それでも油断はならない。ベスは一つの可能性を言う。
「まぁ、斥候によるとセレシア国内外からメイガス・ユニオンの魔術を本部へと招集しているようだし、俺たちの考えている通りだろうな。それでも、最低限の魔術師は設置しているみたいだし、罠の可能性も捨てきれないし、あれ……なんだっけ?ダイモンか?よくは知らんが、そういう化け物もいるみたいじゃねぇか」
「ダイモン、ねぇ」
アナトはその言葉を聞いて、嫌な記憶を思い出す。
あれは何年前だったか。六、七年前か?自分はまだ二十を超えたばっかりの、まだまだ先のある人生。しかし、明らかにあれは今までの、そしてこれからの生き方に影響を与えるほどの──
大切な人を……人を?
失った、あの……忘れられない、忘れてはいけない──
「おい、大丈夫か?」
アナーヒターのその言葉でハッと、アナトの意識は現実世界へと戻ってくる。
今は嫌な過去を思い出す時ではない。前を見て、次の戦いに備える時だ。
「あ、あぁ…問題ない。少し、な」
アナーヒターはアナトの過去を知っている。だからこそ、今回の戦いでは彼女の事をかなり心配しているのだ。あれは彼女の中で、一生消えないトラウマだ。最強とも呼ばれるアナトだが、彼女は決してメンタルも化け物であるわけではない。
孤高の存在だからこそ、彼女の心の中には色んなモノが渦巻いている。
そういう彼女を見たくないのに、アナトは周囲の期待に応えようと努力してしまう。そんな変われない彼女を見限ったからアナーヒターは──
「まぁ、良いか。んじゃあ、ベスは知らないみたいだし、軽くダイモンについて説明するか」
アナトは既に知っている情報で、長年、冒険者に所属しているウェルベル・コットロルもまた同様であった。しかし、ここ数年で入って来たベスやミトラは全く知らない話であった。ゆえに知らない二人は頼むという意味で軽く頷き、また知っている二人も無言ではあったものの、その眼は説明してくれと訴えている眼であった。
そうして周囲の反応を確認してからアナーヒターは解説を始める。
「メイガス・ユニオンは魔術学の研究をする目的で設立された組織。そして、設立時に掲げていたテーマがある。それは「神を超える」よ。そしてメイガス・ユニオンはあらゆる魔術を用いて人体実験を行い、まさに人類を超えた力を持つ者を生み出そうと試みてきた。そうして強化されて生まれた者たちが『ダイモン』だ。元々、ダイモンは古代エルフ語で精霊という意味なのだが……まぁ、そこら辺の解説は別に要らないでしょ?とにかく、魔術で強くなった奴らがダイモンってことだけ把握しておけば良いよ」




