戦争開始 3
「あれが英雄レギンか……」
ぽつり、とミトラが呟く。
アナトに劣るも、戦いに身を置く者であれば分かる。そうそう見ることのないほどの圧に風格。まさに英雄と呼ばれるのに相応しい戦士の一人だとミトラは実感した。
また、同じ剣聖という身であるため、私もいつかあれほどの強さ、レベルまで到達しなければ……!と自分がまだまだ弱い事を実感するのであった。
「ヤベェな、レギンの奴。五、六年ぐらい前に見たことがあったけど、あの時よりも強さが増してやがる。えげつねぇ野郎だぜ」
ベスもまた彼の姿を見て驚いていた。
傭兵時代、少しばかりちょっかいをかけたことがあったが、あの時はまだベスでも善戦できる程度の実力だった。しかし、今だったら善戦どころか、勝ち目のない勝負になりそうだ。
「レギン殿が戦争参加してくれれば、もっとラクになってとても嬉しいのじゃがね」
そのように言いながら、ズズズッ、とお茶を飲むウェルベル・コットロルであった。
しかし、レギンがこの戦争に首を突っ込むことは絶対にない。というのは彼が冒険者ではなく、スヴァルト国軍の人間であるからだ。
「まぁ、しょうがないよ。それに彼がいなくても私たちが頑張ればこの戦争、何も問題はない。さて、話は何処まで進んでたっけ?」
アナトはそうして話を元に戻す。
「斥候の情報から敵の配置を確認していた所だろ?」
そう言ってベスはテーブルの上にあった赤い駒を動かし、地図上に配置していく。
「斥候として先にセレシア国内に潜入したポットバックの情報によると、セレシアはこちらの要求通り、国軍は出さず、メイガス・ユニオンの魔術師だけを配置している。だが、予想以上に魔術師の数が少なく、最低限の数しか動員していないとの事だ」
アナトはそのベスの話にさらに言及を行う。
「伏兵の可能性は?」
「それもない。そもそも、スヴァルトとセレシアの国境は拓けている。隠れる場所なんてねぇよ」
スヴァルトの国全体が山岳氷河になっているというのもあって、元々はセレシアとの国境も険しい山岳地帯であったという。しかし、これまで何度もあったセレシアによるスヴァルト侵攻によって国境沿いはエルフの魔術とドワーフの兵器によって自然破壊されてしまい、現在はまるで荒野のような、だだっ広い状態になっている。
「なるほどね、多分メイガス・ユニオンは本部決戦に持ち込むつもりかな」
戦争というものは時代、場所に関わらず共通しているのは敵の拠点や地形的に攻めやすい場所、守りやすい場所と言った『要所』というモノの取り合い合戦だ。そして時にはそこを囮にしたり、捨てたり、奪って行くことでより複雑化し、戦略になってくる。
だが、今回は人数的にも、それぞれ一人一人の兵士の強さ、戦力も冒険者側が勝っている。となれば、戦略というものは小手先だけの悪あがきとなってしまう。であれば勝率が低いというのに、要所防戦で毎回、戦力を投下するのは無意味と考えるのは当たり前だ。
となると取る戦略は一つ……ここは最重要箇所であるメイガス・ユニオン本部で迎え撃つことだ。兵器、魔術師、全ての戦力を一極集中させてくることだろう。




