戦争開始
そこはセレシアから北西にあるスヴァルトと呼ばれる国。
この国はなんと神代の頃からあるのが確認されているという長い歴史を持ち、そして何度もセレシア侵攻から防いできたという軍事国家である。
しかし、防いできたと言っても、それが可能であったのは地形的なモノもある。というのも、スヴァルト全体が山岳氷河となっており、戦いにくい、攻めにくい地形なのである。
そのうえ、スヴァルトに住む種族がエルフでも、人間でもなく、ドワーフであるというのもまた攻め破れなかった要因の一つだろう。
ドワーフは地中で生活するため、地中内部に適応した肉体を持っている。暗闇でも見える優れた眼、地中を掘り進めるための腕力、そして狭い空間でも生活しやすい小柄な体である。鉱石や工芸品を作っているイメージもあると思う。もちろん、この世界でもドワーフがそれらを得意としている。が、それはドワーフという種族特有のモノではない。
地中の中で過ごすという特殊な環境が生み出した文化的なモノである。
そう言われてもよく分からないと思うため、エルフで例えてみよう。
エルフは魔術を重要視する種族で、ほとんどの者が上級魔術まで取得している、また日常でも魔術を用いて生活する者が多い。しかし、魔術は決してエルフだけの特権ではない。人もドワーフも魔術を使える。エルフはほかの種族よりも魂から魔力を生成、放出するのをしやすく進化した肉体を持っていたから、このような魔術を重要視する文化を持った種族となったのだ。
ドワーフも同様だ。地中で生活するというその特殊な環境から、あらゆる鉱石を加工し、あらゆるモノを作り出す技術、文化が発展したのだ。そして、才能があり、努力さえすればそれらの技術は人であろうと、エルフであろうと会得することは出来る。
そんなドワーフの単一種族国家が、スヴァルトなのである。そして現在、スヴァルト国内には多くの冒険者たちがメイガス・ユニオンとの戦争に向けて準備を行っていた。そこはスヴァルトの首都であり、地中を大きく繰り抜いて出来たその場所はヴェリルと呼ばれていた。
本来、首都は国の中心ということもあり、他の都市に比べて建物は大きく、また道路が舗装されていたり、街灯が設置していたりと、都市の規模が大きくお金をかけている場所が多い。しかし、やはり地中ということもあって、首都であるいうのにそれぞれの建物はそれほど大きくなく、迫力はない。また眼が優れたドワーフに街灯の必要はなく、景色だけ見れば最低限の光しかないゆえに不気味に感じる者もいるだろう。
だが、通りはとても賑やかになっており、多くのドワーフたちが通っていた。またドワーフ特有の工芸品やここでしか採掘出来ていない魔鉱石などを求めて他国から来た商人も少なくなかった。さらにあちこちからカンッ!と工業らしい金属のぶつかる音が響いてきており、景色に似合わず騒がしい場所となっていた。
そのヴェリルの郊外、より都市部から離れたその場所には仮拠点として冒険者たちが生活するためのテントが多く設置されていた。




